2021年1月16日 ⑧採卵成績を向上させるために Ⅱ栄養学的因子 その1 前回のコラムでは採卵成績に影響する遺伝因子について触れました。今回から栄養学的因子について2回に分けて触れていきたいと思います。 Ⅱ栄養学的因子 ① NFCとDIPのバランスについて 桐野有美先生のコラム第7話でも解説されているように、DIPの給与量が多く且つNFCの給与量が少ない場合はアンモニア産生が過剰となり、その代謝産物である血中尿素態窒素(BUN:Blood Urea Nitrogen、以下BUN)が上昇します。BUNと卵胞液中の尿素濃度には比例関係があり、また卵胞液中の尿素は卵子に悪影響を与えることが報告されています。 上記の理由からDIPが相対的に多く給与され、NFC及びDIP給与量のバランスが崩れている場合はBUNが上昇し、採卵成績が低下する恐れがあります。逆に、NFC/DIPバランスを適正に保てばBUNの上昇を抑えることができ、採卵成績の向上に繋がります。2007年の岩手県農業研究センター畜産研究所の報告において、採卵前10日前後から採卵当日まで飼料中のNFC/DIP値を5以上に設定すると高い採卵成績が得られるとされています。また、同報告において過剰排卵処置開始日のBUNと血糖値の比率(BUN/Glu)はNFC/DIP値と高い相関関係を示し、BUN/Glu比が0.2以下の個体では採卵成績が良好であったとされています。採卵成績が振るわず、前述したような飼料バランスを意識していない牛群の場合、まずは過剰排卵処置開始日に血液検査を行いBLU/Glu比を調べ、適宜飼料調整していくのが良いかもしれません(飼養管理の健全性が低い牛群においては、BUNの評価が正確に行えないことを注意する必要があります)。 ② ビタミンAとβカロテンの給与に関して ビタミンAの前駆体であるβカロテンはビタミンAと同様に抗酸化作用を持つほか、それ単独で黄体機能促進作用を持っています。また、血中βカロテン濃度が低いウシでは卵胞嚢腫が多いとする報告があり、排卵機序にも深く関わっていると考えられています。βカロテンは生草に多く含まれており、貯蔵状態の良い牧草サイレージにはある程度含まれていますが、乾草やコーンサイレージにはほとんど含まれていません。このような事情から放牧や生草給与を行っている牧場では特に冬季のβカロテン不足が心配されます。 血中βカロテン濃度が200μg/dl以下のウシにおいてはβカロテンの増給が採卵成績を改善させる可能性があります。過去の報告ではβカロテン含有サプリメント(全薬のベータブリードSP等)を一日にβカロテンとして200mg、2~4カ月ほど給与した場合に大きな効果があったようです。佐々隆文先生のコラムでも紹介されている通り、βカロテンやビタミンAを給与するときは亜鉛も給与することが大切になってきます。 以上、①NFCとDIPのバランス、②ビタミンAとβカロテンの給与量について触れました。次回は脂肪酸、微量元素の給与量と採卵成績の関係に話を進めていきたいと思います。 笹崎獣医科医院 |