(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
池田哲平のコラム
尿石症を考える(27)

コラム一覧に戻る

2013年1月18日

 次に、自力排尿が見られず、かつ、直腸検査で膀胱も張っていないという場合。これは最も深刻な事態になっていることが予想されます。

 考えられる状態としては大きく2つあり、1つは、尿そのものが作られていない、つまりは腎不全の状態に陥っている可能性が考えられます。腎臓の一番の働きは体内の老廃物を外に捨てるために尿を作ると言う事です(詳しくは「牛の解剖93」~「牛の解剖98」参照)。その腎臓が機能しない病的な状態が腎不全なのですが、そうなってしまうと当然尿は出来ませんし、体内の老廃物は外に出る事が出来ません。人であれば人工透析を行うことになるのですが、牛さんでは行えず、助ける事は出来ません。屠畜するにしても、血液中の尿素態窒素(BUN)の値が基準値を大きく超える事は確実で、枝肉には出来ず全廃棄になってしまいます。

 そうしないためにも、とにかく腎不全に陥る前に処置をする事が大切になります。腎不全は急になる病気ではなく、尿石症などを長期間にわたって治療せずに放置した場合にしかなりませんので、何かしらの前兆があるはずです。牛の発育や被毛の状態も非常に悪い事が殆どです。腎不全になってしまっては助ける事は出来ないので、とにかく早期発見・早期治療が唯一の助ける方法です。

 下の写真は尿石症の診断で手術せず緊急出荷した牛さんの腎臓です。腎臓内にも結石がゴロゴロで、腎不全に陥る一歩手前でした。この場合、出荷前には必ず簡易的にでもBUNの値は測り、廃棄にならない値であることを確認して出荷することが望まれます。屠畜したはいいが、全廃棄になってしまっては元も子もありません。

尿石症を考える(27)

|