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池田哲平のコラム
尿石症を考える(28)

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2013年1月25日

 もう1つの状態として考えられるのは膀胱破裂です。これは、腎臓でつくられた尿が一時的に溜められる場所である膀胱が破れてしまって、尿がお腹の中に漏れ出している状態です。ですので、尿道を経由しての排尿はありませんし、膀胱には尿が溜まらず膨らまないので、直腸検査をしても膀胱は張っていません。これまで、尿石症のバイパス手術後に膀胱破裂を起こした牛さんに遭遇した経験はありませんが、起こりうる状態を考えていきたいと思います。

 原因としては、手術したバイパス尿道が結石などで再閉塞してしまい、排尿できない状態で膀胱が限界以上に膨満してしまう事が考えられます。膀胱破裂を起こした肥育牛は、典型的な尿毒症の症状(脱水、活力低下、種々の程度の下痢、など)に併せて、お腹の中に漏れ出した尿によって下腹が異様に腫れあがった形に見えます。何も処置を施さなければ、早ければ1日もたたずに死んでしまいます。とにかく迅速かつ効果的な治療を行わなければ命に関わりますし、お肉としての価値もなくなってしまいます。

 膀胱破裂を起こしてしまった肥育牛に対する処置の方法は様々な方法が報告されています(開腹による膀胱縫合+腹腔洗浄、腹腔カテーテルによる腹腔内の貫流洗浄、膀胱内へのカテーテル留置による排尿、などなど)が、手技の難易度・治癒率・コストなどの面で一長一短があるようです。私は今まで膀胱縫合や腹腔貫流は行った事がないので詳しくは分かりませんが、最後に挙げた膀胱内へのカテーテル留置法でも治癒率は低くはありません。バイパス尿道からカテーテルを入れて膀胱内に留置する、という非常にシンプルな方法で、カテーテルから排尿させることで膀胱内に尿が溜まらないようにして、膀胱の破裂孔が自然に塞がるのを待つというものです。膀胱破裂と言っても、膀胱がビリビリに破れてしまう訳ではなく、一部に孔が開いてしまってそこから尿が漏れ出しているだけなので、破裂部位を尿という汚染物質にさらさなければ、損傷の程度や部位によっては自然に塞がる事も多いのです。また、処置そのものも非常に簡便で、尿毒症で死に瀕している状態の牛への体力的負担を考えた場合には、非常に有効な方法です。腹腔内に溜まった尿は、留置針などで腹腔穿刺することで直接的に排尿し、腹膜炎の継発と尿毒症の増悪を予防することに注力します。

尿石症を考える(28)

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