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池田哲平のコラム
尿石症を考える(29)

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2013年2月1日

 これまで数回にわたってバイパス手術後の術後管理について話してきましたが、気を付けるべきは、とにかく自力排尿がしっかり行えるかどうかです。尿石によって尿閉(おしっこが出ない状態)を引き起こしている事への対処として尿道バイパス手術をしたのですから、尿が出なければその手術をした意味がなくなってしまいます。自力排尿できることを確認したうえで、食欲がしっかりあるかどうかというのは肥育牛として最も大切な観察項目です。
 しかし、術前の経過が長かった牛さんでは食欲がなかなか戻ってこない牛さんも多いです。というのも、経過が長い牛さんでは、膀胱や尿道の粘膜が結石によってかなり損傷を受けていて、非常に強い炎症を伴っていたり、ひどい場合には出血を伴う膀胱炎や尿道の拡張が見られたりします。さらに重症例では腎臓が損傷を受けてしまっていて、全身状態の低下を伴うほどにまで腎機能が低下してしまっている場合もあります。この場合、血液検査なども含めた検査を行い、全身状態を把握し予後判定を行わなくてはいけません。これは単に病気が治る・治らないだけではなく、牛さんの経済価値の話にもなります。つまりは、その時点でのその牛さんの経済価値と、今後の治療にかかる費用やその後の増体・付加価値の増加などを総合的に考えて、どうするのが最も利益が出るか、もしくは、もし利益が見込めないならばどうすれば最も赤字が少なくて済むかを、獣医師だけでなく農家さんとも一緒に考えていく必要があります。

 長きにわたって尿石症についていろいろと話してきましたが、これだけたくさん話したのは、やはり病気としての重要度やその後の経済的損失が非常に大きいからです。詳しい話は今回でおしまいになりますが、少しでも皆さんのお役にたてれば幸いです。
 次回は最近あったちょっと珍しい症例を紹介したいと思います。

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