2013年2月8日 「池田!なんか小便出るところが腫れてて包皮炎っぽいから診てくれ」 とある農家さんからこの様な電話の内容で往診依頼がありました。牛の病気の事もよく知っている農家さんだったので、言うとおり包皮炎なのだろうなと思いながら車を走らせました。 診察する牛は生後27ヶ月齢の去勢牛。到着時、牛は座っている状態で顔つき良く反芻もしており、農家さんによると餌も食べていたとの事。単純な細菌感染による包皮炎であれば、局所の腫脹だけで全身症状(発熱や食欲低下など)は伴わない事がほとんどなので、今回もそういうケースだと思い、診察スタート。 包皮を見ると、確かに少し腫脹していて皮が分厚くなっているが、細菌感染による膿の排泄などは見られない。ここで、包皮やその周辺を触診していて気になるところが2点見つかりました。まず1つは、包皮内や陰毛が乾燥していて尿が排泄されていないかもしれないということ。もう一つは、包皮周辺から左のお尻の部分にかけて広範囲に筋肉や皮下組織といった普段は柔らかく柔軟性のある組織が非常に硬くなっていたということ。後者に関しては、広範囲な筋炎を思わせる感じでしたが、ここまで広い範囲で起こっているのは見た事がない。そして前者は、明らかに尿石症による尿閉を疑わせる所見。しかし、この農家さんでは尿石症はもう何年も出ておらず、実際、今回も包皮や陰毛に結石などは見られませんでした。 「除外診断のためにも、直検で膀胱が張ってないかと、補液しておしっこが出るかは確認しておきますね」 そう告げてまず直検。膀胱は張っておらず問題なし。 ・・・・・・明らかに包皮だけでなく、上部の尿道の方も腫れてきている。触った感じはまさに尿道破裂。尿道周囲の組織にどこからか尿が漏れているのは確実。 そのまま屠畜場に行って中を見に行くと・・・・・・ななっ!何だこれは~~~!! 左足の付け根のところにぽっかり穴があいていて、そこから尿の混ざった腐敗した液体が大量に出てきました。ここは触診の時に筋炎を思わせるような硬結が見られた部位の一部。その周辺は広い範囲に線維素が析出して黄色化し、著しい炎症が起きていました。 何かしらの原因で尿道が破れて尿が漏れ出し、その結果として筋炎が起きたのか。または逆に、筋炎が先に起きていて、柔軟性を失った周辺組織に含まれていた尿道が何かのきっかけで破綻したのか。 ちなみに、枝肉は左半丸が少々廃棄にはなりましたが、A5-8番で無事取引されました。 前の記事 尿石症を考える(29) | 次の記事 膀胱炎を考える(1) |