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笹崎直哉のコラム
褥瘡(床ずれ)に対するアプローチ 前編

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2022年9月22日

今回のコラムでは肥育牛の蹄葉炎や骨軟症、それから跛行を伴う運動器疾患で見られる褥瘡(床ずれとも呼ばれますが以下褥瘡と記載します)について紹介していこうと思います。
なお褥瘡に関しては過去戸田獣医師のコラムでも掲載されています(第352話「褥瘡について再考①」第353話「褥瘡について再考②」)。是非ご覧ください。

褥瘡とは体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤色に変化したり、傷ができてしまうこととされています。一方、一言に褥瘡といっても傷が骨まで達してしまうケース、皮膚や筋組織が壊死してしまうケースもあり人の医療では褥瘡の状態をステージに分け、各ステージでアプローチ方法が違います。せっかくの機会だったので少し褥瘡の治療に関する記事を読んでみました。そこには病床のマットレスやクッション剤の選択、栄養管理、外科的治療とその前後のスキンケア、日々のリハビリテーション(運動療法・物理療法)など多岐にわたるアプローチが存在し、いろいろな向き合い方があるなぁと感じました。
では牛さんではどうでしょうか。農家さんがどの時点で褥瘡だと判断し、獣医さんの処置を受けつつどう向き合っていけば良いのでしょうか。個人的には抗生剤や消炎剤を淡々と投与するだけでは回復に向かっていかないことが多いように思います。むしろリハビリテーションに注力した方が良いことがあります。今回は実際に私が経験した症例(哺乳期子牛)をもとに紹介していこうと思います。

◯結論から申しますと…
やはり上記のような人医療でのアプローチ方法に従って丁寧に進めていく方がベターです。一方で「できること」と「できないこと」が浮上します。経済動物だという認識と牛舎環境や飼養管理などをしっかりと把握し、可能な範囲で処置を施す必要があります。

順を追って説明します(今回のターゲットは子牛です)。

①褥瘡を発見したら
シンプルに寝ている時間が長い、立つ時に苦戦する、時間を要す子牛に発生が多いイメージです。
そういった子牛の背景に虚弱体質で栄養度が低く活力がない、骨折や関節炎などの疾患を持っている、牛床が不衛生、管理スペースが狭いことが挙げられます。

このように褥瘡を発見した場合獣医さんに連絡をすると思いますが、獣医さんがくるまで時間を要する場合、農家さんご自身でやってもらいたいことがあります。主に2つです。水道水で構いませんので患部に付着したノコクズや糞量を出来る限りとってあげること、それから綺麗な包帯や布等で患部を保護してあげてください。実際に褥瘡治療の依頼があった農家さんは到着までの間、アームカバーで被覆してくれました。

②獣医さんが農場に着いたら
獣医さんに情報提供をお願いします。主に2つです。まずは過去の治療歴(腸炎、肺炎、骨折、関節炎、擦過傷、臍帯炎、肋骨骨折での治療歴がある等)です。褥瘡の原因追及と治療をする上で重要なヒントになります。
もう一つは過去の飼料(人工乳:スターター)摂取量や飲乳量の状況をお伝え下さい。栄養度は褥瘡の回復に大きく関わっているためです。その際は糞便性状(下痢かどうか)も併せてお願いします。

さて次回、後編は治療面(投薬、患部洗浄と被覆、リハビリテーション)、栄養面、飼養環境面について進めていきます。

 
 
 
 
今週の動画
褥瘡【 pressure ulcer 】のケアをしてみました

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