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笹崎直哉のコラム
久しぶりの子宮脱

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2022年9月6日

今回のコラムは症例紹介です。乳用牛、肉用牛の分娩後の疾患として、緊急性を要するものの1つである「子宮脱」について紹介します。子宮脱は難産の際の長時間にわたる強い牽引および分娩後の陣痛持続などが直接の原因となります。また低カルシウム血症も子宮脱の誘因となるとされています。過去数例経験していますが、私の肌感覚からすると初産牛で発生が多いイメージです。

子宮脱は緊急性を要するが故に
① 発見の早さ
② 現場での速やかな判断、処置

この2つが非常に重要です。つまり脱出後の経過時間と還納・整復に要する時間がその牛さんの予後を左右するといっても過言ではないでしょう。
さて今回は「朝、分娩舎にきたら子宮脱していた。胎子は産まれていたが死んでいる」との稟告にて往診しました。分娩のセンサーを導入していない農家さんだったため、どのタイミングで分娩があったのかがわかりませんでした。
到着後すぐさま診察しましたが、脱出後かなりの時間が経過していると判断しました。その理由は子宮粘膜面が乾燥(カッピカピに乾燥していました)、うっ血、浮腫状となっていたためです。母牛は起立不能で脱水し目が落ち込んでいました。農家さんも「分娩から時間が経っている可能性が高い」とおっしゃっていました。

9産目の母牛でしたが、尾力(尻尾を持って動かした際にどのくらい力が入るか)が弱く、胎子が比較的大きかったため、難産となり分娩後も強い陣痛が続いていた可能性があります。ただ診断時は努責がほぼ消失していました。
子宮脱は伏臥位より立位(起立させた状態)での整復の方が容易なのですが、今回は残念ながら起立不能牛です。もし整復困難な場合はカウハンガーやリフトなどを利用して後躯を吊り上げることも視野にいれました。
準備を終え、いざ整復しようとした途端、母牛の容態が急変し横臥位となりそのまま亡くなってしまいました。
非常に残念な結果となってしまいましたが、やはり子宮脱は発見の早さが重要だと改めて感じました。子宮脱以外にも分娩前後は緊急を要する疾病が多いので、今後もスピードを意識して対応することが重要ですね。
 
 
 
 
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