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データを分析して現状を正しく知る(出雲畜産技術士のコラム第6弾-14)

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2022年6月25日

14 肉用牛飼養頭数と飼養戸数

 図は、肉用牛に占める黒毛和種と乳用種、交雑種の頭数と、飼養戸数の推移を表しています。黒毛和種は、去勢牛を含むオス牛とメス牛の全ての頭数を表していて、増減を繰り返しています。乳用種は漸減傾向にあり、交雑種は50万頭前後で推移する傾向が見られます。

 乳用種は乳牛のホルスタイン頭数が減少したことや、受精卵移植で和牛を交配する頭数が増加したことから100万頭から78万頭に大きく減少してきました。交雑種はホルスタイン雌牛から生産されることから、乳用種同様2008年の60万頭から2011年の50万頭へ減少しましたが、それ以降は50万頭前後で推移しています。和牛は2009年に180万頭だったのが、2016年には160万頭と減少しましたが、インバウンドなどによる需要の増加により枝肉価格が好調に推移したため、2021年には180万頭と持ち直しています。

 肉用牛飼養戸数は2008年に80千戸でしたが、2021年には42千戸と半減しました。頭数の落ち込みより農家戸数の減少が顕著です。統計数値(全国の総飼養頭数規模別の飼養戸数)を見ると、経営規模が飼養頭数20頭以下の戸数が大きく減少し、30頭以上の農家はあまり変化がありません。零細規模の肉牛農家が減少した傾向が見られます。


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 私のいる北海道でも、高齢化により農業経営を停止するとともに、和牛飼育を中止する農家が多く見られます。それら農家の方は、後継者の有無が経営継続の判断材料となっています。経営の将来性が見込められれば、後継者が後を継ぐ傾向が強く、生活基盤が確立された農家経営には、後継者がいるように思います。将来展望が描ける経営には人が残るということでしょうか。

 和牛肉は食材として世界からも注目されています。ヨーロッパやオーストラリア、アメリカでは黒毛和種の改良に取り組み、日本並みの脂肪交雑が入った和牛肉生産を目指しています。改良を進めるには、遺伝資源としての優秀な個体の存在が欠かせません。日本には肉専用種の子取り用めす牛が633千頭(2021年現在、全国肉用牛振興基金協会調べ)が飼育されており、これらを基に改良を加えて、現在の優秀な種雄牛が誕生してきました。しかし、この母数でも最近は近交系数の高まりが問題になっています。

 海外では、いわゆる純血の黒毛和種めす牛が何頭飼育されているのでしょうか。海外にいる程度の繁殖牛では、近交を避けながら育種改良を進めることは困難です。そこそこの脂肪交雑がある牛肉生産は可能でしょうが、日本で生産されているような、芸術的な和牛肉生産は難しいと考えます。

 ここで問題になるのは、遺伝資源の海外への流出です。そこで、国は受精卵や精液などの、和牛改良に必要な遺伝資源は貴重な国家財産として位置づけ、海外への流出がないように2020年に家畜改良増殖法が改正されました。詳細は下記HPをご覧ください。
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/
l_tiku_manage/pdf/flier2_zoushokuhou_2010.pdf

(つづく)

出雲畜産技術士事務所 代表 出雲将之
 
 
~ 出雲畜産技術士のコラムシリーズ ~

第1弾「幸せな牛飼いとなるための10カ条-1

第2弾「厳しい時こそ「カイゼン」のチャンス-1

第3弾「牛さんの気持ちになって考える

第4弾「牛さんとわたし

第5弾「和牛への支援と将来展望
 
 
 
 
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