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データを分析して現状を正しく知る(出雲畜産技術士のコラム第6弾-12)

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2022年6月4日

12 改良の歴史と遺伝的能力向上

 和牛は1950年代頃までは主に役用牛として,耕起作業などの農耕に供されてきましたが、農業の機械化に伴い役用牛から肉用牛としての役割を担うようになり,1960年頃からは食生活の変化により,和牛が肉用牛として牛肉生産に寄与するようになりました。1966年に岡山県で初めて開催された全国和牛能力共進会の開催テーマは、「和牛は肉用種たりうるか」でした。そして1970年鹿児島県での開催テーマは、「日本独特の肉用種を完成させよう」で、この頃から黒毛和種としての能力向上のために、改良に力を入れ始めたと言えます。

 肉用牛の改良の始まりとなる産肉能力検定は、種雄牛候補となる若雄牛の増体能力などを評価する直接検定と,候補種雄牛の去勢牛産子を一定期間決められた飼料給与法により肥育して産肉能力評価する間接検定法が,1968年から和牛の登録制度に導入され,種雄牛の能力検定が始まりました。そして1965年頃からは凍結精液による人工授精が普及したことにより、改良が早くなり和牛改良が進展しました。

 2006年からは現場後代検定法への移行を開始し,2003年以降生まれの種雄牛がこの手法により選抜され,2010年頃から種雄牛としての供用が始まり,改良に貢献してきました。脂肪交雑などの肉質と枝肉重量などの産肉能力が改良目標となり、1991年の牛肉自由化以降は,輸入牛肉との差別化を図るため肉質重視の改良に力点が置かれてきました。その結果、和牛枝肉形質に関する成績は年々良くなっています。

 種雄牛や雌牛の改良が進んだこともあり、枝肉形質の育種価は大きく向上しました。表1は各形質の遺伝率を表しています。遺伝率とは、個体の表現型値が親から伝達された育種価(相加的遺伝子型値)によって決まる割合を表し、1.0に近いほど遺伝による影響が大きいと見ます。枝肉重量の遺伝率は0.58で、遺伝による影響が6割近くあり、飼養管理を含めた環境要因により残り4割が決まることを表しています。同様に、BMSの遺伝率は0.71で7割が遺伝で決まり、残り3割が環境要因となります。
(つづく:次回更新は6/18です。)

出雲畜産技術士事務所 代表 出雲将之
 
 
~ 出雲畜産技術士のコラムシリーズ ~

第1弾「幸せな牛飼いとなるための10カ条-1

第2弾「厳しい時こそ「カイゼン」のチャンス-1

第3弾「牛さんの気持ちになって考える

第4弾「牛さんとわたし

第5弾「和牛への支援と将来展望
 
 
 
 
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