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データを分析して現状を正しく知る(出雲畜産技術士のコラム第6弾-10)

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2022年5月21日

10 子牛出荷頭数と市場価格の推移

 図は、1990年から2021年までの全国子牛市場における出荷頭数と去勢牛価格を表しています。この図の出荷頭数と子牛価格は農畜産業振興機構が、肉用牛安定基金協会の提供データに基づき集計しているもので、2020年までは黒毛和種で250㎏以上320㎏以下、交雑種では260㎏以上320㎏以下の子牛が集計対象となっています。そのため、家畜市場が公表する黒毛和種市場データより、出荷頭数が少なく、1頭当たり価格は低く出る傾向にありました。現実のデータとの乖離を解消するため、2021年4月からの集計対象は、日齢182日以上365日以下となりました。これによりそれ以降の集計数値は頭数が増え、子牛価格は高くなっています。

 子牛出荷頭数のピークは1994年前後と2009年前後にあり、出荷頭数が多いと子牛価格は安くなる傾向が分かります。2014年前後に大きく減少した黒毛和種出生頭数は、2020年にかけて増加傾向にありましたが、家畜市場への出荷頭数に変化が見られません。肥育生産者が繁殖部門を開設し、家畜市場に出荷しないで肥育される子牛が増えたためと考えられます。


拡大

 2021年は子牛出荷頭数が342千頭となり、前年より30千頭増えましたが、これは前述の集計方法の変更によるものと推察します。子牛価格(去勢牛)は2016年に900千円/頭近い最高値をつけました。この年は去勢牛とメス牛の合計と畜頭数が近年で最も少なく、枝肉単価がここ30年間での最高値を記録しました。2014年前後に底を打った出生頭数の影響がその翌年に出たために、子牛の市場出荷頭数が少くなり、枝肉単価が良かったので肥育生産者が強気で競った結果、子牛価格(去勢牛)が最高値になったと考えられます。

 新型コロナウイルスの影響で、2020年に子牛価格(去勢牛)が700千円と大きく落ち込みましたが、2021年には価格を800千円に戻しました。

 2022年現在のメス牛頭数は1,123千頭で、1,016千頭で最低頭数となった2016年以降、増加傾向が続いていることから、今後と畜頭数が増えることが予想されます。これまでの経験上、と畜頭数が増えると枝肉単価の低下を招き、肥育農家の収益性が低下するため、子牛市場での競り価格が下がる傾向にあることが分かっています。ただし、海外への和牛肉輸出や国内需要が回復、拡大することで和牛肉の需要増による枝肉単価の下落が抑えられれば、肥育生産者の子牛購買意欲の低下に歯止めがかかります。需要喚起のため、国内外での和牛肉消費拡大が重要です。
(つづく)

出雲畜産技術士事務所 代表 出雲将之
 
 
~ 出雲畜産技術士のコラムシリーズ ~

第1弾「幸せな牛飼いとなるための10カ条-1

第2弾「厳しい時こそ「カイゼン」のチャンス-1

第3弾「牛さんの気持ちになって考える

第4弾「牛さんとわたし

第5弾「和牛への支援と将来展望
 
 
 
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