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データを分析して現状を正しく知る(出雲畜産技術士のコラム第6弾-5)

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2022年4月16日

5 和牛と畜頭数の増減と枝肉及び子牛価格

 農畜産業振興機構のHPに、畜産物需給関係の諸統計データのコーナーがあります。牛肉生産量やと畜頭数、牛枝肉規格別卸売価格などの統計データを見ることが出来ます。今回はと畜頭数に着目して、考察を加えたいと思います。

 図の通り、と畜頭数は増減を繰り返しています。和牛子牛の出生頭数が少なくなれば、それらが肥育出荷される2~3年後のと畜頭数は減ります。出生頭数は2014年まで減り続けました。それらが肥育出荷される2016年から2017年にかけてのと畜頭数は、近年で最も最低となっています。枝肉の供給が減って、インバウンドなどで和牛肉の需要が増加した2016年頃は、和牛枝肉単価が税込みでA5格付け2,800円/kg、A3格付けでも2,400円/kgとなり、過去最高値を記録しました。


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 これを受けて、2016年の子牛相場は去勢牛で800千円/頭を超えるなど、過去最高となりました。これに似た事象は2006年頃にも起きています。この時は図にも書いた通り和牛と畜頭数が減り、枝肉単価が上がり基調となりました。ちょうど新ひだか町静内で育てたマニュアル牛を市場出荷した時だったので、当時の家畜市場のことはよく覚えています。それまで市場平均が去勢牛で400千円/頭程度だったのが、平均で500千円/頭を超え、その中で静内の牛は600千円/頭で売れました。初めて和牛飼育に取り組んだ生産者が、その高値に大喜びする姿は今でも目に焼き付いています。

 当然ですが、メスより去勢牛のと畜頭数のほうが常に多いです。しかし、その差は年によって多少があります。まず1994年と2013年に注目してください。メスと去勢牛のと畜頭数の差は殆どありません。逆に2006~2008年と2016~2018年にかけての差は非常に大きく、去勢牛に比べてメスのと畜頭数は4万頭少ないです。2006年と2016年は子牛価格が最高値を記録した年で、繁殖農家の経営にはゆとりが生まれていました。

 2つの要因が考えられます。一つは子牛価格が高いことから、将来性を見越して肥育素牛として市場出荷するメスを保留し増頭したこと。もう一つは、子牛価格が高いので経営にゆとりができ、優良なメスを積極的に保留したことで肥育に回るメスが減少した結果と想像します。メスのと畜頭数が少ない状況は2021年も続いています。繫殖農家の増頭意欲が高いことを示しています。

(つづく)

出雲畜産技術士事務所 代表 出雲将之
 
 
~ 出雲畜産技術士のコラムシリーズ ~

第1弾「幸せな牛飼いとなるための10カ条-1

第2弾「厳しい時こそ「カイゼン」のチャンス-1

第3弾「牛さんの気持ちになって考える

第4弾「牛さんとわたし

第5弾「和牛への支援と将来展望
 
 

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