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藤田真千子のコラム
No.14 脂肪壊死症を乗り越えて分娩した黒毛和種母牛①

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2021年12月16日

今回は脂肪壊死をなんとか乗り切って、先日分娩に至った黒毛和種の母牛の症例についてです。
初診は今年の5月でした。人工授精の際に脂肪壊死があると言われた母牛の餌食いが悪いとの稟告でした。診察してみると、大きめの脂肪壊死塊が11-2時の方向に2つありました。妊娠4か月で血統も良いということで、農家さんと相談し治療を選択しました。

脂肪壊死症の原因としては、膵臓からの脂肪分解酵素の漏出による脂肪組織の融解壊死、飽和脂肪酸の多給による脂肪組織の変性、脂肪動員亢進に関連した脂肪分解の障害…などなどが言われていますが、まだ完全には明らかになっていません。ただ遺伝的影響は大きいようで、種雄牛により発生率にかなり差があると報告されています。また、育成期に太りすぎた牛では発生しやすいと言われています。
小さい脂肪壊死塊であれば問題にはなりませんが、消化管を圧迫、通過障害が起こると食欲不振や下痢、疝痛症状が現れます。治療しても治癒させるのはかなり難しく、時間もコストもかかるため、治療するかどうかは慎重に判断する必要があります。種雄牛や成績の良い繁殖母牛では治療が選択されることもあります。
以下、今回おこなった治療についてご紹介します。

~治療法~
脂肪の代謝を担っているのは肝臓であるため、肝臓の働きを助ける治療をおこないます。
・高張ブドウ糖液やレバチオニン、パンカルなどの点滴(強肝剤について:戸田獣医師の第237話241話
・バイパスコリン、バイパスメチオニン、ベタインなどの製剤を継続的に飼料添加する(肝臓からの脂肪排出を促進)
炎症を抑えるため、妊娠していなければ糖質コルチコイド製剤も使用されます。また、活性酸素による脂肪の酸化を抑えるために抗酸化剤の投与もおこないます。

つづく
 
 
今週の動画
「Anatomy of cow’s uterus. 牛の子宮の解剖学 その1」

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