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池田哲平のコラム
牛の解剖134:雌性生殖器の病気(1)―膣脱―

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2013年12月6日

 膣脱とは、膣前庭を含む膣の一部または全部が陰門から一時的または長期にわたって脱出する状態のことを言います。以前伏見先生もコラムで繁殖母牛の膣脱を紹介(No.212「膣脱整復 ビューナー法」)していますので、病態や治療法などの詳しい記述はそちらに譲るとして、今回は肥育牛の膣脱に対して私が思っていることや治療・予後など述べたいと思います。

 肥育牛の膣脱の原因は、肥育に伴う過肥による膣周囲組織への脂肪沈着や腹圧の上昇が主因であると考えられますが、ここに他の要因(遺伝的要因、エストロジェンの上昇、陰門の損傷や弛緩、など)が重なることで、より起こり易くなると思います。

 特に、エストロジェンは分娩時や発情時に濃度が上昇するホルモンの一つで、その作用により膣粘膜が肥厚し陰門が弛緩しますが、肥育牛においても発情が来る牛はいますし、持続的な発情を示すタイプの卵胞嚢腫になっている牛などは膣脱のリスクが高くなります。
また、一部のマメ科植物(クローバー類など)には、エストロジェンに似た作用を持つ物質である“イソフラボン誘導体”が含まれていて、大量摂取によってエストロジェンと同様の作用を牛に引き起こすので、注意が必要です。

 そして、未経産で肥育されている牛よりも、出産を経験して肥育されている経産肥育牛の方が、膣脱は起こり易いです。一度でも出産を経験した牛は、未経産牛に比べて陰門周囲の筋肉や靭帯が弛緩しやすい状態になっているので、膣が陰門から脱出しやすくなります。

 治療法としては、我々が行っている方法は経産牛と同じく“ビューナー法”です。繁殖牛は妊娠末期という一時期さえ過ぎれば、分娩を境に腹圧の上昇などは抑えられますが、肥育牛では出荷まで持続的に腹圧が高い状態が続きます。このため、肥育期間や腹圧の程度にもよりますが、ビューナー法で縫合した箇所に高い圧力が長期間にわたってかかり続けると、縫合部分が避けてしまう場合があります。ナイロン糸を二重にして行っている理由は、糸が細いために一部に過剰なテンションがかかっているためだと思われます。現在、より良い資材を探索中です。

牛の解剖134:雌性生殖器の病気(1)―膣脱―01

牛の解剖134:雌性生殖器の病気(1)―膣脱―02

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