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池田哲平のコラム
牛の解剖135:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(1)―

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2013年12月13日

 子宮脱は繁殖母牛で起こる病気の一つで、分娩後に子宮の一部または全部が反転して陰門から脱出することを言います。分娩後の強い努責が一番の原因ですが、その他の要因(子宮を支える靭帯の過度の緩み、低Ca血症、難産、分娩時の胎子の無理な牽引、産道の損傷、分娩後の姿勢異常、など)が重なった時に脱出しやすくなります。

 多くは産歴を重ねた経産牛において起こり易いですが、これは子宮や陰門周囲の靭帯が緩みやすくなっているためだと思われます。私は今までに一例だけ初産牛で子宮脱を起こした症例に遭遇したことがありますが、その時は畜主の方が子牛を牽引して娩出させており、かなりの難産だったことが原因の一つでした。

 膣脱と違い、子宮脱は非常に緊急的な処置を要する疾病であり、手遅れになると命に関わる病気です。脱出した子宮は陰門の部分で根元(子宮頚管や膣の部分)が締められる形になるので、体外に脱出している先端部分の血流が滞ることで浮腫を起こして腫れあがり、全身性に循環不全も起こして時にはショック状態に陥ります。汚れた牛床に触れることで子宮の粘膜は傷つき、出血し、時間が経てば経つほど乾燥して組織は壊死してしまいます。たとえ命が助かったとしても、繁殖牛としては飼養できなくなる可能性もあります。

 こういった病気の特性から、子宮脱は獣医師だけではなく、子宮脱を起こしている母牛の目の前にいる牛飼いさんたちの適切な緊急処置が、その後の治癒率に大きく影響します。獣医師がすぐには駆け付けられない時などは、牛飼いさんたちの手当て・レスキューによってしかその牛さんは助けられません。

 次回は具体的な処置の方法などを紹介していきたいと思います。

牛の解剖135:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(1)―

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