(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
池田哲平のコラム
牛の解剖136:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(2)―

コラム一覧に戻る

2013年12月20日

 では、子宮脱を発見した際に牛飼いさんたちにやっておいてもらいたい項目を以下に挙げます。

1.子宮の汚染・損傷を防ぐ
 脱出した子宮が汚れた尻尾や後足または牛床についてしまうと、子宮の粘膜が汚されて雑菌が付着するだけでなく、表面が傷ついてしまう事があります。そうなると、子宮が無事戻されてもその後不受胎が続いたり、繁殖牛として飼養できなくなったりしてしまいます。尻尾を結び、子宮はビニールシートなどで覆って後足や牛床に触れないようにしましょう。もし子宮表面が汚れてしまっている場合などは、ぬるま湯でやさしく洗ってあげて下さい。
 また、獣医師が来るまでに時間がかかる場合、そのままにしておくと子宮の表面が乾燥してしまう場合があります。乾燥した子宮粘膜は組織に傷がついた状態と同じで、細胞は死んでしまいますから、乾燥も防がないといけません。子宮表面をきれいに洗って、その後も定期的にぬるま湯をまんべんなくかけるか、清潔なふきんやシーツを湿らせて子宮の表面にのせておくのが効果的です。

牛の解剖136:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(2)―

2.子宮の浮腫を防ぐ
 母牛が立っている状態であれば子宮は下に垂れ下がった状態になるので、子宮の末端の血液は上まで戻りにくくなります。そうなると子宮はどんどん腫れてしまい(腫れた状態を“浮腫”と言います)、その後、中に戻そうとしても戻らなくなることがあります。この浮腫を防ぐためには、子宮の高さが重要になります。子宮全体を少なくとも陰門と同じ高さか、できれば尻尾の付け根くらいの高さに保ち、子宮の血流が滞らないようにします。母牛が座っている、もしくは横になっている場合などはまだ良いのですが、立っている母牛に対して子宮を持ち上げるのは結構大変です。軟らかく掴みどころのない10kg以上ある妊娠子宮は、手や腕で持ち上げようとしてもなかなか上手くいきませんし、無理にやると子宮を傷つけることもあります。ベニヤ板などに綺麗なビニールシートを敷いて、その上に子宮を乗せて肩に担ぐように持つと、比較的楽に持ち上げられると思います。
  
 初期の手当てがなければ子宮脱は命を落とす危険もある病気ですが、この2点だけでも頭に入れておいて、発見から早い段階で適切な手当てを行えれば、治癒率は大きく変わってきます。

|