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池田哲平のコラム
牛の解剖137:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(3)―

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2013年12月27日

 この様な適切な前処置を行った後、脱出した子宮を還納して(元に戻して)いくのですが、この過程で、母牛は産道に異物が詰まる感覚をおぼえるために強い努責が出ます。還納する前は普通の状態でも戻している最中に努責が出てくるため、子宮の還納がスムーズにできなかったり、子宮がまた出てきたり、無理な力で還納すると子宮を傷つけたりしてしまいます。これを防ぐために、まずは尾椎硬膜外麻酔を打つことが大切です。

 子宮の還納は、根元(子宮頸管側)からゆっくりと行っていくのですが、ここで問題が発生する場合があります。前回コラムの2.で書いたように、脱出した子宮は浮腫を起こしやすく、浮腫を起こした子宮は陰門から還納するのがかなり難しくなります。浮腫を防ぐような前処置が上手くできなかった場合や、還納前に浮腫を起こしていることが分かる場合は、この浮腫を元に戻さなければいけません。最も簡単で、かつ確実性・即効性があるのは子宮に砂糖をかけることです。スーパーに売っている普通のお砂糖です。これは、浸透圧の原理を用いて子宮の組織にたまった水分を外に吸い出すというものです。どう見てもそのままでは還納できないだろうと言うくらいに浮腫を起こしている子宮に砂糖をかけていくと、少しずつ子宮は小さくなっていき、吸い出した水分(組織液)がどんどん子宮から滴り落ちていきます。実際の処置は、砂糖をかけながらどんどん子宮を還納していくので、浮腫を起こす前後の正確な比較はできませんが、明らかにそのままでは戻らないくらいの子宮が還納された結果が事実になります。

 ここでの注意として、砂糖の代わりに塩(食塩)を使ってはいけないということです。浸透圧を利用するということから同じように考えて塩を使った場合、子宮の組織の細胞が死んでしまいます。塩の主成分(NaとCl)は生体にとって非常に重要なミネラルで、細胞の中と外で非常に絶妙なバランスを保っています。子宮粘膜に塩をかけた場合、この細胞内ミネラルバランスが急激に崩れてしまい、細胞は崩壊し壊死してしまいます。

 ナメクジに塩をかけたらナメクジは死ぬ(体組織が溶ける)のを思い起こせば、やってはいけないということが想像できると思います。

牛の解剖137:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(3)―_01

牛の解剖137:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(3)―_02

牛の解剖137:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(3)―_03

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