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池田哲平のコラム
牛の解剖138:雌性生殖器の病気(2)―子宮脱(4)―

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2014年1月10日

 そんなこんなで子宮を元に戻した後も、いくつか注意点があります。

 まずは、子宮をしっかり奥まで元に戻すことです。外見上は子宮が陰門から中に入ってしまえば元に戻ったように見えますが、実際はただ中に押し込んだだけにすぎない場合が多く、反転して脱出してきた子宮が元通りの状態に戻っていないことがあります。イメージとしては、裏返しになった靴下を元に戻すような感じです。子宮を奥まで整復する場合、陰門から腕を肩まで入れても子宮の先端までは届かない場合があるので、そういう時は一升瓶などを使って押し込むこともあります。繁殖牛がたくさんいる地域の獣医さんであれば、子宮脱整復棒という専用の道具を持っている先生もいるかと思います。ポイントは、子宮の粘膜を傷つけないような手技や道具で、優しく丁寧に処置を行うことです。

 次は、陰門縫合です。一旦整復できた子宮でも、分娩後の努責が強い間は再脱出してくる場合があるので、これを防ぐためには陰門を縫合する必要があります。方法は膣脱整復後の陰門縫合と全く同じです。ただし、子宮脱の場合、陰門縫合を行うのは再脱出を防ぐ一時的な処置として行うので、処置後12~24時間経過した段階で抜糸し、陰門の縫合を解除します。

 脱出後の子宮の汚染がひどかった場合や、整復過程が不衛生であった場合などは、陰門縫合を行う前に抗生物質入りの生理食塩水などで子宮洗浄を行うこともあります。また、遡っての話になりますが、起立不能の状態では腹圧がより高くなるため、子宮の整復は非常に難しいです。この場合は、内科療法(補液など)を行って牛さんの起立欲を回復させたり、それも困難な場合は物理的に牛さんを吊り上げたりする必要があります。

 以上で子宮脱の一連の話はおしまいになりますが、とにかく大切なのは、“発見してからいかに素早く適切な処置が行えるか”という点に尽きると思います。数ある疾病の中でも、子宮脱はとにかく最初の処置のスピードが、その後の治る・治らないに大きく影響する病気です。
命にもかかわる病気ですが、牛飼いさんたちが出来る処置で助けることができる病気でもあります。

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