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池田哲平のコラム
牛の解剖139:雌性生殖器の病気(3)―子宮捻転(1)―

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2014年1月17日

 子宮脱のほかに、繁殖母牛の分娩前後に起きる病気の一つとして、子宮捻転があげられます。子宮捻転とは、その名の通り子宮が捻じれてしまうので、出口をふさがれた胎子は娩出されなくなってしまいます。しかしながら、分娩過程は止まることなく進行し子宮は収縮するので、胎子は圧迫されて死亡してしまうこともあります。母牛は、お腹を蹴ったり尻尾を異常に振ったりというような腹痛の症状を示すことが多いですが、症状が軽い場合は目立った行動を示さない場合もあります。早く異常に気付かなければ胎子の命にかかわってくるので、分娩予定日前後の母牛がお腹を痛がるような行動をしたり、分娩が始まったように見えるけど破水が無かったり分娩過程がスムーズに進行しないような場合は、子宮捻転の可能性があるのですぐに処置が必要になります。

 子宮捻転の原因としては、分娩前のホルモン動態の変化と物理的な要因が関係しています。
 分娩が近くなると、エストロジェンやプロスタグランジンといったホルモンの血中濃度が高くなってきますが、これらの作用によって子宮頸管は軟らかくなり弛緩します。さらに、子宮収縮を促すオキシトシンというホルモンの濃度も上昇し、子宮が収縮することによって胎子や胎水の子宮内移動が起こります。もともと左右不対称に大きくなっている子宮角は、胎子と胎水の移動でバランスが取れなくなり、ここに、外部要因(牛さんの移動や急な運動(転倒や滑走)、傾いた牛床での無理な姿勢、など)が重なると、捻転が起こると考えられています。また、牛さんは立ち上がる時、後肢をまず伸ばして腰を持ち上げて、その後前肢を伸ばすので、一瞬ですが、子宮は子宮頸管を支点として上から吊るされるような状態になります。この時に上記のような胎子の過度な運動などがタイミングよく重なると、捻転を起こします。

雌性生殖器の病気(3)―子宮捻転(1)―

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