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加地永理奈のコラム
リッキングなしの懸念点

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2025年10月29日

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分娩直後、母牛は自然と子牛を舐める「リッキング」という行動をとります。
これは、胎水で濡れた子牛の体を舐めて毛を乾かすだけでなく、舌の刺激によって子牛の呼吸や血液循環を促す働きがあります。
しかし、分娩時の状況や管理上の理由から、出産直後に母牛から子牛を離す場合もあります。
では、母牛によるリッキングが行われないことで、どのような懸念が生じるでしょうか。

1つめは子牛の低体温症です。
30分ほどリッキングを受けた子牛は、体毛がフワフワに乾きます。(私はこれをお母さん仕上げと呼んでいます。)
一方、人がタオルで拭くだけでは十分な刺激が得られず、体表が濡れたままの状態が続きがちです。
出生直後で初乳を飲む前の子牛は体温調節が難しいため、濡れたままでは低体温症に陥るリスクが高まります。
この対策としては、子牛を早く清潔で保温性のある環境に移すか、カーフウォーマーの導入がおすすめです。

2つめは子牛の免疫力の低下です。
リッキングを受けた子牛は、初乳から免疫グロブリンを吸収する能力が格段に向上します。
また、母牛の唾液を通じて良い細菌・微生物が子牛に移行され、ルーメンおよび腸内環境の形成にも役立ちます。
リッキングが行われない場合は、これらの効果が得られず、免疫力や発育に影響を及ぼす可能性があります。
対策としては、初乳をできるだけ2時間以内に与えること、生菌剤を早期に投与することが推奨されます。

3つめは母牛の子宮回復の遅れです。
リッキングには、子牛側だけでなく母牛側にも作用があり、母牛のオキシトシン分泌が促進されます。
これにより子宮が収縮して後産が排出されやすくなります。
もし母子分離をして、分娩後3時間が経過しても胎盤が排出されていない場合には、オキシトシンの投与を検討すると良いでしょう。

リッキングは母子の健康を支える重要なスキンシップですが、母牛が行えない場合には、人の手でその役割を少しでも補ってあげることが大切です。
 
 
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