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藤﨑ひな子のコラム
BVDV③

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2024年4月26日

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 日差しが強くなり、最近は日焼け止めクリームを塗ることが必須となってきました。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

 前回のコラムでは中耳炎についてお話しました。今回のコラムでは少し戻りまして、BVDVがテーマです。BVDV②でも少しお話しましたが、どのようにPI牛を見分けるかについてお話します。

 抗原検査で陽性となった牛は、PI牛であるかを確認するために3週間以上間隔をあけて再検査をする、とお話しました。これを検査の図と一緒に見てみましょう。縦軸をウイルス量や抗体量、横軸を経過時間とします。

 PI牛でない場合の検査結果を図1に示します。健康なウシがウイルス(BVDV)に感染すると、体内ではまずウイルス(赤線)が増えます。それに続き抗体(青線)が産生され、それに伴いウイルスが減少します。抗体は生体内で一定期間存在します。
 一方、PI牛の検査結果を図2に示します。PI牛では、生まれたとき(お母さんのおなかの中)からずっとウイルスが体内に居ますので、ウイルスの量は常に高値を示します。一方、ウイルスに対して免疫寛容を示しますので、抗体は産生されず常に低値を示します。

 抗原検査はウイルスを、抗体検査はBVDVに対する抗体を検出する方法です。先ほどの図に、検査を実施した地点を赤枠で示しました。

 注意するのは、①と④⑤です。①は健康牛がBDVDに感染した場合の初期、④⑤はPI牛ですが、どちらも抗原検査陽性、抗体検査陰性となり、検査結果は一緒なのです。また、実際には抗原検査のみで判断する場合も多いため、①②と④⑤も抗原検査の結果は全て陽性ですので、健康牛が感染したのか、PI牛であるかは判断できませんね。

 この問題を解決するために、2地点での検査を行うのです。例えば、抗原検査が陽性のウシが農場で検出されたとします。PI牛かどうかを判断するため3週間後に再度抗原検査を実施すると陰性でした。この場合、このウシはPI牛でしょうか?それとも健康牛がウイルスに感染したのでしょうか?
 この場合、健康牛が感染した、と考えます。1回目の検査は①または②の地点、2回目は③の地点を反映していると考えられます。この3週間以上という期間ですが、健康牛の場合ウイルスに感染しても約3週間で体内から排除されることから、この期間が設定されています。

 一方PI牛では3週間以上あけて複数回検査をしても常にウイルスが検出されますので、そのような場合はPI牛と判断されます。PI牛がなぜウイルスを体内から排除できないか、というと「免疫寛容」が関与しています。BVDV①のコラムで、胎仔が免疫形成前にBVDVに感染するとPI牛になる、とお話しました。免疫とは、大雑把に言いますと「自己」と「非自己」を区別し非自己を排除することを言います。そして、その能力はお母さんのおなかの中にいる間に獲得するのです。その能力を獲得する前に胎仔の体の中にウイルスがいると、その牛は「これ(ウイルス)も自己なんだ」と勘違いをしてしまうのです。これを「免疫寛容」といいます。

 いかがでしたか?免疫寛容という、なんとも賢い戦略をウイルスは持っているのだなと感心してしまいます。また、全ての感染症に対して言えることですが、免疫寛容でなくても免疫系が弱っていると、排除できる病原体も排除できませんので、日頃から牛の免疫系の向上を心がけましょう。
 
 
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【下痢】哺乳期子牛の下痢の原因(食事性下痢)

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