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加地永理奈のコラム
症例紹介:子牛のナックルに対する切腱術

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2021年9月29日

先日の松本獣医師のコラムでも紹介されていたF1子牛のナックルについて紹介します。
ナックル、ナックリング、突球、屈腱短縮症、先天性屈曲性肢変形症など様々な呼び方がある本症は、胎子期の長骨の成長が腱などの軟部組織の成長速度に比べて早いことや遺伝的な素因により、球節が伸展せず曲がったままの姿勢で起立、蹄のつま先で着地します。

この子牛は肩の開きとナックルにより起立ができず、生後4日齢で両前肢球節をギプス固定しました。これにより起立しやすくなり肩の筋力がつくことを期待しましたが、なかなか改善がみられなかったため、生後3週齢で肩のギプス固定を追加しました。その3週間後には外固定により肩の開きはなくなりましたが、ナックルに改善がみられず人力でも伸展しなかったため、重症例と判断し切腱術を実施しました。
方法は副蹄より上位の浅指屈筋腱および深指屈筋腱の切断が教科書的ですが、副蹄より遠位の深指屈筋腱(副蹄遠位靭帯)を切断する方がより伸展するという話を聞き、今回やってみることにしました。
球節を伸ばすように支持すると突っ張った深指屈筋腱がはっきりと確認できるので、そこを剃毛し切皮します。次にわずかな皮下組織の下に深指屈筋腱があらわれるので、鉗子等で持ち上げ切断します。すると人力でも伸展しなかった球節が途端に伸展できるようになりました。ただしこの方法は術部が2か所になることや地面に近くなるために汚染しやすいことが懸念されるので、術後のケアも大切です。縫合し再びギプス固定した後、5日間の抗生物質投与をおこないました。

今後も経過を観察し、また重症のナックルに出会った際には今回の手法の適応を考えたいと思います。

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