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産む前に暴れる牛さんに |
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2021年3月16日
ある日、昼間の勤務を終え夜間待機中に農家さんからこんな電話がかかってきました。
「分娩予定日から4日遅れの妊娠牛の駆けつけ通知(牛恩恵が抜けた際に携帯電話にくるお知らせメール)がきたから様子を見にきた。でも母牛が神経質で暴れて産道に手を入れることができない。見にきてくれないか。」
といった稟告でした。お産関連の往診依頼といえば逆子、胎子失位、胎子過大もあれば子宮捻転、子宮脱などさまざまですが今回のような連絡ははじめてです。
私は農場に向かう道中、母牛がどんな状況なのかを想像していました。
・もしかして子宮捻転が起きて痛いのかな?
・双子で陣痛が強くてキツいのかな?
・そもそもお産とは別に基礎疾患があるのかな?
いろいろ考えながら牧場に到着しました。そして、問題の母牛を診察しました。農家さんの言っていたとおり「神経質で大暴れする牛さん」でした。牛さんの体に少し触れただけで、鼻息が荒くなり柵に繋がれた状態で左右にお尻を振って暴れるのです。
もし強い怒責、陣痛が原因なら、塩プロ(塩酸プロカイン : 局所麻酔薬)で尾椎硬膜外麻酔を実施し、子宮の痛みを緩和させて落ち着かせようと企んでいました。しかしそのような兆候はありません。一方でセラクタール(鎮静剤)で鎮静術を行えば母牛は落ち着きますが、子宮の収縮を招くし、スリーピングベイビーといって胎子に悪影響を及ぼすリスクがあります。
さぁどうしようか。
笹崎は目の前にあった「タオル」、「ロープ」をヒントに思いつきました。

「そうだ!母牛に目隠しと猿ぐつわをやってみよう」
タオルで牛さんの眼とその周囲を覆い、よく洗ったロープで猿ぐつわをしてみました(すみません、写真撮影を忘れたので弊社、社長のコラム「急性ガスに猿ぐつわ!!」で猿ぐつわの様子をご覧ください)。今回の猿ぐつわは「気を紛らして落ち着かせること」が目的です。もちろん金属製のものでもよかったのですが、現場になかったのでロープで代用しました。いざ実行してみると、なんということでしょう。牛がだんだん落ち着いてきたんです。
その間に産道をチェックしました。特に異常所見はなく、胎子バイタル良好、頭位上胎向、子宮捻転(−)、子宮頚管の開きもバッチリだったので、すぐさま産科ロープで前足と頭を縛りし、経膣分娩させました。
ふと笹崎は思いました。
「こんなお母さんなら子にリッキングしないだろうし、育子放棄してしまうだろうな。農家さんに初乳製剤を準備しておくようお願いしようかな」
でも実際は今まで行動は何だったの?と思わせるかのように、すぐ子のもとに向かいペロペロと舐めはじめたのです。
「お母さん牛って産前と産後ではこんなに違うんだ、、、」と呆然となりその場で立ちつくす笹崎でした。まあ母子共に元気なので良しとしましょう。
結局のところ今回やってみた猿ぐつわと目隠しは自分の中で good ideaだったと思います。今度何かの治療、処置で応用してみようかなと思う笹崎でした。
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