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江頭潤将のコラム
No.1 家畜の改良技術 その1

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2020年9月11日

 日々畜産の現場に携わっていると、牛は何一つ文句を言わず(たまに蹴りますが笑)人間のために肉や乳などを供給してくれる健気な動物だなーと思うことがあります。
 去年、東京大学総合研究博物館で「家畜―愛で、育て、屠る―」という様々な家畜について知ることのできる展示がありましたが、この「愛で、育て、屠る」というタイトルが家畜のことを端的に表している良い表現だと思いました。家畜としての牛は農家さんからの愛情を注がれて育ち、最後には屠畜されます。和牛は肉用牛ですので屠畜されてお肉にならなければ家畜としての役割を果たせません。
 家畜とは、生物学的には「生殖が人の管理下にあり、野生群から遺伝的に隔離された動物」と定義されるそうです。大昔の人類が気が遠くなるような時間をかけて野生動物を順化させていき、おとなしい、増えやすい、飼いやすい、肉や乳などのタンパク源、耕作や移動手段としての使役など人間の生存のために役に立つ有用な動物を人為的な制御によって作っていきました。もちろん、大昔の牛は現在の姿とは全く違っていたはずです。現在飼われている牛はどこからきたのでしょうか。

 今や牛の改良が進み、黒毛和種ではBMS No.は2桁、枝肉重量は500kg超え、ホルスタイン種で年間乳量10,000kgが珍しくないという凄まじいことになっています。自然界では決してあり得ない姿の牛たちですが、このようになったのは先人達による改良(すなわち人間の役に立つ遺伝的能力を向上させる)の賜物です。特に近年の改良スピードには目を見張るものがあります。
 どのようにしてこのような著しい遺伝的能力の向上が可能となったのでしょうか。家畜の改良は育種学と繁殖学の2つが重要な役割をしています。繁殖学や育種学が発展する以前の和牛の改良の歴史は伏見先生のコラム(No.66~)で紹介されていますので、ここでは近年の技術革新による家畜改良を中心に、現場での応用や最近の技術開発などについて見ていきたいと思います。

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