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江頭潤将のコラム
No.2 家畜の改良技術 その2

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2020年9月18日

 様々な技術が研究開発され家畜改良に応用されていますが、繁殖分野は効率的に家畜を増殖するために必要不可欠なものです。大学時代から繁殖関係のことをずっとやってきましたので特に関心のある分野の一つです。

 繁殖学は優秀な能力(遺伝子)を持つ個体を効率よく増やすことを目的としていますが、この目的に最も貢献しているのは今のところ凍結精液を用いた人工授精ではないでしょうか。これには文字通り「精液の凍結保存技術」と「人工授精技術」の2つの技術が用いられています。
 この2つの技術は単体でもすごい技術なのですが、組み合わせることで1+1=100くらいの圧倒的な改良増殖の効率化が実現しました。すなわち、いつでもどこでも誰でも牛の交配をすることが可能になり、空間的、時間的な障壁がなくなりました。これは当時ではものすごいブレイクスルーだったと思います。また、優秀な種雄牛を選抜して利用するため、一般的に人工授精は”雄側からの改良”と言われています。
 普段当たり前のように行っている人工授精ですが、牛の繁殖において基本的かつ重要であるこれらの技術についてまずは見ていきたいと思います。

○人工授精の始まり
 日本における人工授精の研究は100年ほど前に馬で始まりました。牛はやや遅れて研究が始まりましたが最初は伝染病(結核)の予防が目的だったようです。軍馬の需要が減っていくなかで、次第に研究の中心は牛にシフトしていきました。戦後になると牛を増殖する必要に迫られ、1950年に家畜改良増殖法が制定されて本格的な実用化と普及が進められました。その結果、3割程度だった普及率が1960年にはすでに9割を超えるようになり、急激に普及していきました。
 ちなみに、人工授精を語る上で欠かせない重要な役割を果たした人物がいますがこの方は後々紹介したいと思います。

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