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江頭潤将のコラム
No.3 家畜の改良技術 その3

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2020年9月25日

○人工授精がもたらした変化
 急激に普及していった人工授精ですが、普及する前後では様々な変化がありました。例えば乳量について見てみると、普及率が高くなるに従って乳量も増加しています。

 これは乳量に関する遺伝的改良が進んだ結果です。人工授精にはこのようなメリットもありますがデメリットがあるのも事実です。以下、箇条書きで列挙します。

メリット
・伝染性の生殖器病の減少、防止
・改良にかかる年月の短縮、改良スピードの促進
・能力(遺伝形質)の早期判定
・農家さん側で雄牛を飼育する必要がない
・交配のための牛の輸送が不要
・輸入精液を用いた海外の種雄牛による改良も可能(乳牛)
・少数の雄牛を集中管理することができるので飼養コストが削減できる
・優秀な種雄牛の精液を比較的安価に手に入れることができる
・1回の射出精液を希釈することで数百本の精液ストローが作製可能であり数多くの雌牛に授精することができる
・液体窒素中に凍結保存することで半永久的に保存が可能
・種雄牛が死亡したとしても遺伝資源として精液を保存できる
・遺伝的不良形質の排除
・人工授精師という新たな職業の創出
・近年では性選別精液による雌雄産み分けが可能

デメリット
・人間による発情発見が必要
・免許の取得及び技術の習得が必要
・人工授精用の精液を採取する場所や人工授精を実施する者の制限あり
・不適切な授精や技術の失宜から生殖器を傷つけたり感染させたりする可能性
・種雄牛の飼養、精液ストロー作製のための専用設備が必要
・凍結精液の保管に維持コストがかかる(ボンベ・液体窒素など)
・人気のある種雄牛に偏りが生じ遺伝的多様性が失われる
・近親交配による近交退化
・遺伝的に優秀であったとしても精液の耐凍性が悪い場合は種雄牛となれず淘汰される
・未知の遺伝的不良形質が存在した場合、急速に広がる可能性がある
・和牛遺伝資源の流出や不正使用があり得る(最近でもありましたね)

 それぞれの解説については省きますが、ざっと挙げただけでこれだけあります。確かに悪い面もありますが、それを補って余りある人工授精の恩恵があります。だからこそ、日本の牛のほぼ100%に近い数が人工授精によって誕生しているというほど普及しているのだと思います。また、受精卵移植や性選別精液による雌雄産み分けなどの繁殖技術も基礎には人工授精技術があり、家畜の改良増殖に関する技術開発はここから始まっています。次回からは人工授精の技術内容について詳しく見ていきたいと思います。

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