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蓮沼浩のコラム
第436話:魔法の弾丸 その5

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2016年3月28日

 気が付けばあと数日で3月も終わり。は、早い!!あと4日後には4月。気分も新たに頑張ります。
  
 ついに完成した606号。じつはこの606号を作り上げるのにも、日本人の研究者の大きな貢献があります。その人物はというと、秦佐八郎博士。島根県生まれの秦博士はエールリッヒ先生のもとで、ものすごいガッツで実験を繰り返します。そしてついに606号を作り上げるのです。秦博士はエールリッヒ先生とともに、世界で初めて抗菌薬を作った人物として知られています。とんでもなくすごいことをされた方なのですが、意外と知られていないことがちょっと残念です。

 さて、606号がトリパノゾーマに効果があることがわかってから、今度はついに人間の病気に対して標準を定めます。トリパノゾーマに似た病原菌でトレポネーマというものがあります。このトレポネーマは人間の業病である「梅毒」の病原菌(梅毒トレポネーマ)です。スピロヘータの一種になります。「梅毒」はヨーロッパだけでなく世界に広く蔓延しており、はっきりとした治療法のない「不治の病」として恐れられていました。ほんとうに当時は水銀を飲んだり、怪しげな民間療法をためしたりするだけで、多くの人が全身に膿疱をつくったり、神経症状がでて亡くなっていたのです。
 この梅毒トレポネーマを感染させたウサギに606号を投与すると、劇的な効果が表れます。実験を繰り返し、ついに人間に応用する段階まできたのですが、やはり人体に使用するには副作用の問題もあり、簡単にはできません。

 どうしていくか悩んでいる時に、回帰熱が流行している地域の報告をうけます。この回帰熱は梅毒と同じスピロヘータの一種であるボレリアによりおこるダニが媒介する感染症です。放置していれば死に至る病です。当時はかなり致死率も高く、恐れられていました。そこでこの回帰熱の患者さんに初めて606号は使われたのです。そしてその結果は58名の回帰熱患者のすべてが治癒し、再発が4人という劇的な効果をだしたのです。

 そしてその後、この606号は梅毒の患者さんに応用されて、多くの不治の病の患者さんたちを救っていくのです。この魔法の弾丸の名前は「サルバルサン」となづけられました。救世主という意味が込められた名前です。本当に当時は間違いなく救世主だったのです。1910年のことです。長い歴史の中でついに人類は病原菌に対する武器を手にすることができたのです。

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