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第435話:魔法の弾丸 その4 |
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2016年3月17日
小生、プラモデルを時々つくります。子供にせがまれて作るのですが、徐々に気合が入り、気が付けば子供そっちのけです(笑)。
トリパンロートを発見し、ハツカネズミのトリパノゾーマを不完全ながらもやっつけることを証明したエールリッヒ先生。しかし、このトリパンロートは残念なことに犬、モルモット、シロネズミや睡眠病のトリパノゾーマには全く効果がないことがわかりました。
このトリパンロートの実験が暗礁に乗り上げている時、エールリッヒ先生はある毒薬の論文に注目します。アトキシールという砒素化合物です。理由はよくわからないけど、アトキシールは普通のハツカネズミに投与するとハツカネズミの命を奪うけれど、睡眠病にかかっているハツカネズミに投与すると治ることがあるという報告です。
選択毒性という概念をもっていたエールリッヒ先生はここでピンときたのでしょう。今までの色素化合物から今度は砒素化合物へ実験の対象を移します。まさに「毒薬変じて薬となす」という感じです。このアトキシールを分析してついに化学構造を突き止めます。そして、このアトキシールをもとにしてさまざまな化合物を作り上げます。
しかしとにかくこれまた失敗の連続。ハツカネズミのトリパノゾーマはやっつけるけど、副作用が強くて投与するネズミがことごとく踊りだしてしまうなど、簡単にはいきません。おまけにトリパノゾーマが耐性を獲得して、ハツカネズミがどしどし死んでしまいました。砒素という生体にとって有毒な物質を「魔法の弾丸」に変えることができるはずだという信念のもと、「不可能を無視する熱狂的情熱」につきうごかされて試行錯誤を繰り返し、606個目にしてついにトリパノゾーマを一回の注射で血液のなかから一掃し、かつ安全である砒素化合物を作り上げました。その名は「ジアミノ-ジヒドロオキシ-アルゼノベンゼン-二塩酸塩」といいます。別名「606号」。のちに日本では「ロクロク」などと言われていた抗菌薬が完成したのです。
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