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桐野有美のコラム
「ルワンダ便り−7 「品種改良の波」」

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2010年3月16日

 しかし、そんなのんびりした畜産スタイルではやはり莫大な需要を満たすことができない、ということで、乳量増加が至上命題となりました。アンコーレ牛の出すお乳は一日わずか数リットル。貧困・飢餓からの脱出を目指す政府は、ヨーロッパや南アフリカからホルスタインの精液や未経産牛を大量に導入し、アンコーレ牛との交配で品種改良を進めてきました。この10年間で、牛の数は70万頭から120万頭に、年間牛乳生産量は5万トンからから25万トンに増えています。
 ただ、とにかくホルスタインだったら何でもいい、ということで後代検定もせずにめくらめっぽうに導入・交配してきたことと、雨の降らない乾季にじゅうぶんな草が入手できないことなどが原因で、なかなか思うように乳量がのびないのが悩みどころのようです。私の前任者の活躍で、去年からルワンダ国内で精液ストローを生産できるようになったのですが、種雄牛がまだ3頭しかおらず、遺伝的素質や生産量の面でまだまだじゅうぶんとは言えない状況です。もっと効率的に品種改良を進めたい、だけどホルスタインの素牛を空輸で導入するのはコストもかかるし、リスクも高い・・・ということで求められたのが受精卵移植(ET)技術というわけです。
 まだこの国ではETが実施されたことがないので、まずは器具から入手しなくてはなりません。国の機関なので、何を買うにも入札を行わなければならず、今現在、わたしが作成したリストをもとに入札が行われているところです。日本でフットワークの軽い個人開業の診療所に勤めていたわたしにとって、こういった公的機関のフットワークの重さ、手続きの煩雑さはとてももどかしいです。とりあえず器具がないと何もできないので、今は受精卵移植に関する法律の草案作りをしたり、現場の獣医さんからの要請で診療の助っ人に行ったり、人工授精師研修の講師のお手伝いをしたりして過ごしています。
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