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桐野有美のコラム
「ルワンダ便り−5 「ルワンダの歴史と牛」」

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2010年2月22日

 もともとこの国では、牛を三頭以上飼っている牧畜民族を「ツチ族」、畑を耕してキャッサバやコーヒー豆を作っている農耕民族を「フツ族」と呼んでいました。つまりこのふたつの民族は職業区分としてそういう呼び名がついていただけで、実は同じ言葉を話す同じ民族だったのです。ところがここを植民地化したヨーロッパ人たちが、ツチ族を特権階級に仕立て上げ、フツ族を支配するように仕向けたことから、「牛を持っている人たち(ツチ族)が社会的に高い地位を占める」構造がずっと続き、それがふたつの民族の対立を生み出してきました。第3話で少し触れた1994年の大虐殺という悲惨な体験を経て、民族融和を進める政府やそれをサポートする国内外のNGOの働きで、ふたつの民族がお互いを許しあい、新しい平和な国を作ろうという努力が今も続けられています。
 今はもうふたつの民族のうちどちらが上ということはないのですが、それでも長い歴史の中で「牛をもっている」ということが身分を示すひとつの基準となっていたため、今でも牛を飼うことはそのまま富の象徴となっています。警察のえらいひとや、国会議員、お医者さん、大学教授などはみんなサイドビジネスとして牛を飼っています。
 この国の人たちがよく言うのが、「牛がいれば飢え死にすることはない」という言葉です。牛がいれば毎日牛乳を飲むことができる、牛乳を売れば他の食糧を買うこともできる、というわけです。

【写真は警察官のところに往診にいったときのもの】

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