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桐野有美のコラム
「お産の話−10 「呼吸をすると体のつくりが変わる!?」」

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2007年12月5日

 この胎仔ならではの「抜け道」構造は、外の世界に出ることで大きな変化をとげることになります。
 母牛のおなかの中では、胎盤を通じて母体から酸素を受け取っていた胎仔ですが、いざ外界に出て、口や鼻から空気を吸い込むと、肺が膨らみ、空気中の豊富な酸素が肺の血管から吸収されます。するとみるみるうちに血液中の酸素が濃くなります。この、「肺が膨らみ、血液中の酸素が濃くなる」という現象が、すなわち「もう胎盤がなくても生きていけるよ」というサインになり、反射的に胎盤への血行がストップします。ちょうどそのころ、仔牛が産道から出てもがくことで臍帯(へその緒)が自然とちぎれます。すると、胎盤への通路がなくなったことで、行き場を失った血液が渋滞を起こし、ついには逆流までしてしまいます。信じられないくらい大胆な変化です。ここで前回出て来た「肺を通らずに済む抜け道」に注目してみましょう。もともとその「抜け道」には、逆流防止のための弁が備わっています。ここで逆流が起こるとその弁がペタッと閉じて、抜け道は完全にふさがれてしまいます。そして閉じたまま数日過ごすうちに、弁は閉じた状態でそこに粘着してしまって、永久に閉じたままになるわけです。
 ちょっとややこしいので簡単にまとめると、へその緒がちぎれ、同時に口や鼻から酸素を吸い込むことで、血液が逆流を起こし、そのおかげで胎仔ならではの特別な血管がふさがって、成牛と同じつくりになるというわけです。
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