(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
桐野有美のコラム
「お産の話−8 「そのとき仔牛は・・・」」

コラム一覧に戻る

2007年11月21日

 産出期〜後産期と、時間を追って母牛側のさまざまな変化について書いてきましたが、そのとき仔牛の体にはどんなことが起こっているのでしょうか?
 それまで胎仔を包んで保護してきた膜が破れて羊水が外に出る、ということは、もはや胎仔として母体内にいることができなくなったことを意味します。そこで、ずっと水中生活を送ってきた胎仔は、破水から娩出までの1、2時間のうちに、陸上生活に適応するべくめまぐるしい変化をとげます。
 その中でも最も劇的な変化は呼吸です。
 水中生活時代は、臍帯(へその緒)を通して胎盤から新鮮な酸素入りの血液を取り込んでいるので、胎仔は呼吸をする必要はありません。ときどき羊水の中で横隔膜を動かして、呼吸のまねごとをするようになりますが、実際に肺に何かを吸い込んでいるわけではありません。これは、外界での呼吸開始に向けての練習なのです。
 この時点で、実は呼吸するための肺や気管、そしてそれをコントロールする神経などはすでに完成しており、しようと思えばいつでも呼吸できる状態なのです。でも、実際に子宮の中で呼吸すると、肺は羊水で水浸しになってしまいます(当たり前ですね)。それで、あえて呼吸が起こらないように呼吸活動の神経にストップがかかっているのです
 そして、いよいよ娩出のときを迎えると、図に示すようないくつかの刺激によって、呼吸神経のストッパーが解除され、仔牛は自力で口や鼻から空気を取り込もうと呼吸を開始するのです。
|