(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
桐野有美のコラム
「肝臓の話−2 「がまん強い働き者」」

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2007年6月20日

 肝臓はよく「沈黙の臓器」なんて言われますが、牛でもそうです。ある程度の損傷があっても、肝臓の再生能力、予備能力はとても大きいので、肝臓全体の機能に異常をきたすことはめったにないのです。その代償能を超える障害に陥って初めて自覚症状があらわれるのですが、人間ですら脂肪肝や初期の肝硬変なんかでは本人がまったく気づかないことが多いのですから、ましてや牛が「ちょっとだるい」とか「ちょっと食が進まない」なんて言ってくれるわけもなく、ここはやはり管理している人が気づく、あるいは予防するしかないのです。肝臓がダメージをうけやすそうな季節や、ステージなどを意識して、食欲が落ちてしまう前に先手を打てたらいいですね。
 肝臓廃棄だって今は東京食肉市場で6,900円、うちの管内の屠場でも5,000円します。「肝廃棄なんてなんぼのもんじゃい、モノがいいと肝廃棄くらいでるさ」、という意見も確かにあり、上物の売上額を考えると、その通りかも?と私も思うことがありますが、そんな農家さんの牛舎には、中期から後期にかけてあれよあれよという間に馬みたいに引き締まっていく、妙にスタイリッシュな牛があちこちに見受けられるのも事実です。十分に能力を出し切る前に肝臓の障害で挫折してしまうことは、肝臓廃棄よりもったいないと思うのです。
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