(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
桐野有美のコラム
寄生虫の話−11 「仔牛だけでなく、母牛にも」

コラム一覧に戻る

2007年4月25日

 さて、繁殖農家さんで、仔牛に駆虫薬を投与するのは常識になってきましたが、母牛の駆虫もぜひ実施していただきたいと思います。なぜならば、胎盤を通して母牛から胎仔へ感染する寄生虫(例:乳頭糞線虫)がいるから、という理由もありますが、もうひとつ、駆虫は繁殖成績の改善に役立つからです。消化管内に線虫が寄生していると、そこで発生した過酸化物質が肝臓に負担をかけるということがわかってきました。肝臓に負担がかかることと、繁殖成績と、どういう関係があるんでしょうか?
 まず、発情や妊娠成立に必要なホルモンの原料であるコレステロールは、御存知の通り肝臓で合成されます。つまり、肝臓に負担がかかった状態ではホルモンの合成がうまくいかなくなる、ということです。
 一方、ホルモンの作用というのはタイミングがとても大事で、分泌されて目的を果たしたら、すみやかに消えてもらわないと困るものです。使い終わったホルモンが消える、つまり分解される場所は、これまた肝臓なのです。「代謝」というはたらきです。肝臓での代謝がうまくいかないと、あるホルモンが分解されず長々と働き続けて次の作業が進まず、発情がこない、というわけです。
 それから肝臓は、生殖器の正常なはたらきに不可欠なビタミンAの貯蔵庫でもあります。
 駆虫という作業は、仔牛の健康だけでなく、繁殖経営の鍵もにぎっているということですね。

|