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桐野有美のコラム
寄生虫の話−9 「防衛軍にも得手不得手」

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2007年4月11日

 ところで、牛本来の免疫力である「細胞性免疫」作戦や「液性免疫」作戦は、複雑な命令系統によって実行される、実にすばらしい防御体制なのですが、相手によってはあまり有効とはいえないようなのです。
 例えば牛の体に消化管内線虫が感染すると、それを排除するために「液性免疫」作戦が開始されます。しかし、この作戦は、残念ながら大多数の消化管内線虫にはあまり効果がないのが現実です。それなのに、防衛軍(免疫)は「それが決まりです」と言わんばかりに、張り切って「液性免疫」作戦を遂行しようとするものですから、それでは目的である消化管内線虫をやっつけられないばかりか、(「液性免疫」作戦の最中は「細胞性免疫」作戦に切り替えることができないために)この隙に大暴れしようとするコクシジウムを放置してしまう可能性もあるのです。
 ここでもうひとつ大事なことは、ウィルスや細菌などが侵入してきたときに、本来はじめに発動されるのは「細胞性免疫」作戦だということ。消化管内線虫に対して全力をあげて「液性免疫」作戦を実行しているときに、ウィルスや細菌などが侵入してきたら・・・すぐに「細胞性免疫」作戦に切り替えることができないために、牛の体はそれらの感染を受け入れざるをえず、結果として腸炎、肺炎といった疾病の発生を許してしまう可能性があります。

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