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松本大策のコラム
中国牧場奮闘記 その15

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2015年7月6日

 さて、牛さんを飼育するのに必要なものといえば、まず牛さん、次に飼料(粗飼料と濃厚飼料)、牛舎、敷料、などですね。でもまだ足りないものがあります。いったい何でしょう?
 それは、牛さんの健康を護るためのビタミンやミネラルなどの添加剤、それから病気から牛さんを護るための抗生物質などのお薬です。
 これがまた、手に入れるのにとても苦労しました。日本でしたら、動物薬専門の製薬メーカーや代理店がいくらでもあります。しかし、中国では、それがなかなか見つからないのです。もちろん僕のツテ不足も否めませんが、そもそも牛さん用の薬がなかなかありません。
 中国の獣医さんを訪ねて、そこからたどってなんとかチンメイス(青カビの元と書いてペニシリンのことです)とリェンメイス(繋がるカビの元と書いてストレプトマイシンのことです)、それにドーメイス(土カビの元と書いてOTCのことです)を手に入れることができました。それから、エンノウシャシン(漢字はめんどくさいのですが、とにかくエンロフロキサシン、つまりバイトリルと同じものです)も手に入りました。しかし、本当に効果があるのか不安もいっぱいで、特にエンノウシャシンは、とても安いのですが、日本のものと比べるとまったく手応えがないのでした。とにかく牛の密度を下げて、床の管理をしっかりして、換気を良くして、肺炎などの病気を出さないことが重要だと思い知りました。もう一つ思い知ったのが、僕はいかに日本で薬剤に頼り切っていたのか、ということです。獣医さんも武器がないと戦えないんだと身にしみて、日本の製薬メーカーさんに改めて感謝しなければいけないと思いました。
 季節は全然違いますが、この牧場は冬場は-15℃くらいになります。それでも、カーテンをつけずに換気を良くした方が肺炎は出ませんでした(軍用の帆布のようなものでスクリーンをつけた牛舎は、肺炎が蔓延したのです。哺育期の子牛は別として、第一胃の発達した牛さんでは、換気の重要性を思い知りました。

 それからビタミン剤も、今では牛さん用のものが入手できますが、当時は魚の肝臓の粉末(日本では飼料安全法でアウトですね)しかなく、カルシウム剤も怪しいものしかありませんでした。

 とりあえずそのような衛生材料を入手して、現地の孫泉という獣医師の卵を雇用して中国での肥育を開始したのです。ちなみに、獣医師の資格制度もいい加減なもので、国家ワクチンセンターの地方事務所で「獣医師」という名刺を出したトップに、僕が日本の獣医師(ちなみに「博士」とあえてつけてありました。向こうでは肩書き勝負なのです)を出したところ、「私は獣医師だけど、正式な獣医師ではない」と言い出しました。どうも経験だけでもそういう仕事ができるようです。もう一つ余計なことを書きますが、日本の獣医師のみなさま、中国に行って「僕は獣医師です」と言ってもスナックではまったく相手にされませんよ。全然社会的信用がないんです(笑)。

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