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佐々隆文のコラム
「肥育とストレス−16 「2.ルーメンコントロール」」

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2008年12月5日

 牛は人間が消化吸収できない乾草などに多く含まれる繊維(構造性炭水化物)を消化・吸収できます。それは、牛が4つの胃袋を持つことで可能にしているのですが、その主体となるのがルーメン(第1胃)です。ルーメン内には原虫などのたくさんの微生物が存在しており、第1胃の収縮運動とともにこれらの微生物の働きにより繊維を分解して酸を生産し吸収しているのです。しかしこれらの微生物が快適に働くには、原虫達の餌が必要です。それが濃厚飼料に多く含まれるデンプン(非構造性炭水化物)です。何が言いたいかというと、極端な腹づくりで成功している肥育農家さんを良く見ていると、まったくの粗飼料のみで腹づくりを行っているのでなく、少量ではありますが、必ずフスマや濃厚飼料などを与えているのです。これは、せっかく大量に与えた粗飼料を効率よく消化吸収するためには大事な考え方であり、うまくルーメンをコントロールしていると言えます。
 また肥育前期の腹づくりには、ルーメン内の絨毛を発達させるという目的もあります。ルーメン内の絨毛の発達には、消化速度の遅い粗飼料によるルーメンマットの形成、そしてそれによるルーメン内壁への物理的刺激が重要と言われています。しかし実は、この物理的刺激のほかに、1日一定量の消化速度の速いデンプンなどの非構造性炭水化物の存在が欠かせないと言われています。それは、デンプンなどから生じる酸が化学的に絨毛発達を刺激するのです。この化学的刺激がないと、絨毛は逆に退縮してしまうそうです。要するに、肥育前期に粗飼料のみの給餌を行っていると、絨毛が退縮してしまい、肥育中期から与える濃厚飼料から生じる酸の吸収が上手くいかない、という状態に陥ってしまいます。よって前期の腹づくり期間においても、粗飼料だけでなく1日に少量の濃厚飼料を与えることでルーメンコンディションを整えるということが重要となるのです。
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