(有)シェパード[中央家畜診療所]がおくる松本大策のサイト
松本大策のコラム
分娩前後の飼養管理の問題 その7

コラム一覧に戻る

2014年4月7日

 前回は、お母さん牛に与えるタンパク質の利用効率が悪くて子牛が下痢するというお話しをしました。その前に、分娩前後のカロリー不足のお話しもしていますから、お母さん牛の飼養管理が子牛の下痢の予防としても大変重要だということはお解りいただけたと思います。
 でも、お母さん牛の飼養管理失敗で起こる子牛の下痢はこれだけではありません。最近はあまり見かけませんが、ミルクを出しているからと、分娩後のお母さん牛に濃厚飼料を多給しすぎているケース。こういう牛さんでは、さすがの和牛といえどもおっぱいの量が多くなりすぎることがあります。おっぱいの量が多いとなにが問題なのでしょうか?
 お母さん牛の乳首って長さで5cmくらいあって太いですよね?じつはあの中は空洞(乳管洞といいます)になっていて、ミルクが溜まっているから一絞りでたくさんのミルクがでるのです。
 もしミルクが出過ぎていたら、子牛はお母さんのおっぱいを全部飲みきることができなくなり、乳管洞にも飲み残しが溜まった状態になります。すると、乳首の穴からバイ菌が入って乳管洞の中のミルクが傷んでしまいます。牛乳をコップに入れて日向に置いておく様なものですからね。子牛は次に飲むときは、この傷んだ(腐った)ミルクを飲むことになるので、食中毒の様な下痢をするのです。
 子牛が下痢をしたとき、昔はよく1日か2日断乳(子牛におっぱいを飲ませないこと)をしていました。子牛が低栄養に陥るので2日くらいが限度なのですが、これも子牛の消化管を休ませる意味と、腐ったミルクを次々に飲ませないという意味で効果的でした。
 しかし今では、1分間哺乳法という方法がメインになっています。これは、母子を分離しておいて、子牛をお母さんにつけてミルクを飲ませるときには、先に人間がお母さんのおっぱいを一絞りして(つまり乳管洞の中の傷んだミルクを捨ててしまうわけです)、それから子牛をおっぱいにつけて、1分間飲ませたら強制的に引き離すという方法です。
 これは、「腐ったミルクを飲ませない」という意味と、「子牛の第四胃の殺菌能力(第四胃は食べ物を一時保管して胃酸とペプシンという酵素で殺菌して、安心になった食べ物を小腸に流して消化させるための器官なんです)を超えない量しか飲ませない、という2つの意味があるのです。お腹を壊している子牛に一度にたくさん飲ませると、胃酸が薄くなって殺菌力が落ちますからね。

|