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松本大策のコラム
分娩前後の飼養管理の問題 その5

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2014年3月24日

 第3話につなげた方がよかったのですが、分娩前後に低カロリーに陥ると、「体脂肪を燃やしてエネルギーを作り出す」というお話をしました。この時、お母さん牛は処理しきれないくらいの体脂肪が肝臓に運び込まれると「脂肪肝」になり、繁殖のホルモンの材料であるコレステロールの合成が低下したり、使用済みホルモンの分解がとどこおってしまい、繁殖障害の原因になる、ということも強調したと思います。

 これは繁殖経営にとっては大変問題ですが、分娩前後のカロリー不足は、お母さん牛だけでなく、そのお乳を飲む子牛にまで悪影響を及ぼすのです。前置きが長くなりましたが、今回はそのお話です。
題して「お母さん牛の飼養管理ミスが引き起こす子牛の下痢」。

 お母さん牛が低カロリーに陥っても、お母さん牛は体脂肪を燃やしてエネルギーを作り出して、赤ちゃん子牛のためにミルクを出そうとします。ただ、ここで「脂肪を正常に燃やす」ためにはいくつかの条件があるのです。
 大切なのは、脂肪を燃やすための肝臓のエネルギーや潤滑油が必要なこと。そのエネルギーがブドウ糖(グルコース)で、また肝臓の細胞がいきいきと働くための潤滑油がビタミンB1です。ところが、お母さん牛が低カロリーにおちっている時は、分娩前後で多めに必要になるブドウ糖やビタミンB1も一緒に不足してしまうことが多く、そうなるとカロリー不足で脂肪を燃やそうとしても、不完全燃焼をさせてしまうのです。

 みなさんはプラスチックを燃やしたことはありますか?完全燃焼させるとプラスチックは大量の熱(エネルギー)を出しながら二酸化炭素と水蒸気に分解されます。でもプラスチックは不完全燃焼させてしまうと、ものすごいススを出してしまいます。
 これと同じで、体脂肪もブドウ糖とビタミンB1があると、完全燃焼してたくさんのエネルギーと二酸化炭素と水に分解されます。しかしながら、ブドウ糖とビタミンB1が不足していると、不完全燃焼(β酸化と呼ばれます)してしまい、エネルギーの発生量も少なく、さらには「スス(燃えかす)」を出してしまうのです。
 この時に作られる燃えかすが、ケトン体(覚えなくていいけどアセトン、アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸の3つです)という厄介なものです。まあ、みなさんが若いころ袋にいれてスースーしてたシンナーみたいなものです(笑)
 ケトン体は、酪農家さんではとても大きな問題となり、母牛の食欲不振から起立不能まで、いろいろな病気を引き起こします。繁殖農家さんで問題となるのは、脂肪の不完全燃焼で発生したシンナーみたいなものが、子牛の飲むおっぱいに混入してしまうこと。
 シンナー入りのミルクなんて飲んだら、そりゃ下痢ぐらいしますよね。それがおっぱいが原因で起こる子牛の下痢の一つ「ケトンミルク」なのです。

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