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松本大策のコラム
分娩前後の飼養管理の問題 その4

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2014年3月17日

 さて今回は、分娩前後の低栄養で起こる厄介な病気についてお話ししましょう。
 みなさんは脂肪壊死症という病気をご存知だと思います。昔は「腸間膜脂肪壊死症」と呼ばれていましたが、腸間膜だけでなく腎臓周囲などにも発生するため、最近では単に「脂肪壊死症」と呼ばれるようになってきました。

 「脂肪壊死症は牛さんが太ると起こる」と思われていることが多いようです。しかしあくまで僕の経験ですが、どうもうしさんが痩せて来る時に発症することが多いのです。例えば、分娩前後にお母さん牛が十分な栄養を摂れなくて痩せてくる時、便がおかしいとか食欲が急に落ちた、などの稟告で直腸検査してみると脂肪壊死ができている、という事例をいくつも経験していますし、逆にお母さん牛のボディーコンディションが変わらないか、太っていく時には、診察しても脂肪壊死症を発症していることはほとんど記憶にありません。
 さらに、脂肪壊死症の治療をする時に、痩せさせると急速に脂肪壊死塊が大きくなる、という経験をたくさんしています。ですから、シェパードでは、脂肪壊死症の治療の際には、できるだけ強肝処置などで食欲を上げたあとは、少しでも太らせることにしています。
 痩せていく時に脂肪壊死症が悪化するメカニズムは解っていませんが、痩せる際に脂肪細胞が酵素で分解される働きが暴走して、細胞膜や細胞内の小器官の膜(リン脂質という脂肪の一種でできています)を分解してしまい、炎症を引き起こす細胞ホルモンなどが放出されるのではないか?と考えています。
 恥ずかしながらその辺りの詳しいことは、研究者の先生の意見を待ちたいと思っていますが、とにかく分娩前後に痩せさせないこと、とくに田尻系の母牛が増えてきていますから、十分注意してください。

 但馬(田尻)系に脂肪壊死症の発生が多い理由は以前お話ししていますので、そのコラムも見て見てくださいね。

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