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松本大策のコラム
分娩前後の飼養管理の問題 その3

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2014年3月10日

 ここ何回か、分娩前後の飼養管理について少し詳しくお話していますが、今回も「分娩前後の低栄養」が及ぼす障害についてお話ししたいと思います。こう言うと、「分娩前後は太らせた方がいいんだな」なんて思われる方がいらっしゃるといけませんから、先にお話ししておきますけど、分娩前後に太ると、それはそれで問題になりますから「”ちょうどいい”を目安にする!」ということが大切なんですよ、ということを強調しておきますね。

 さて前置きが長くなりましたが、分娩前後にお母さん牛の栄養が足りないと、お母さん牛は自分を削ってでも子供を育て、ミルクを出そうとがんばります。つまり「体脂肪や筋肉中のタンパク、骨の中のカルシウムなどを削って使うんですね。
 今回は「体脂肪」に注目しましょう。いわゆる人間のダイエットと同じ状況で、「脂肪を燃やしてエネルギーを作る!」というわけです。

 牛さんでは脂肪組織でも脂肪を分解してエネルギーに変えることが解っていますが、やはり「脂肪を燃やす」中心は肝臓です。
 ところが肝臓にイッキにたくさんの脂肪が持ち込まれると、処理しきれない部分が次第に肝臓の細胞に溜まってしまいます。これがいわゆる「脂肪肝」という状態です。
 脂肪肝になると肝臓の能力はさらに低下します。肝臓の働きは、1:毒物の除去、2:エネルギーの生産、3:繁殖のホルモンの材料(コレステロール)の合成、4:使用済みホルモンの分解(働いたホルモンは速やかに分解されないと、次のホルモンが働けません)などです。

 この繁殖のためにも重要な働きをする「肝臓の」能力が低下するために、繁殖がうまく回らなくなるのです。しかも、どこか一部のホルモンがおかしいという状態ではないので、ホルモン剤で解決しないのです。僕が繁殖障害にパンカル系の強肝剤をよく使うのも、そのためなのですね。

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