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松本大策のコラム
牛が立てない!

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2014年2月10日

 時々、牛さんが立てないという稟告で急患が来ます。立てないと、そのまま飼い続けることはできませんから一大事です。

 往診に向かいながら、電話で詳しい様子をうかがいます。(携帯電話は車をとめてから使用しましょう(笑))
 ガスが張っていないか?前足か後ろ足だけでも立とうとしているか?汗をかいているか?苦しがっているか?などです。

 到着すると、立てない牛さんがビックリしないように、声をかけながらゆっくりと近づきます。まずは牛さんの目を見て、命に別状がないか確かめます。
 命に別状があれば、様々な病気の末期の可能性を考えて出荷を念頭におきます。しっかり全身状態を診て、治るか、薬を使って出荷規制をつけるには危険が大きいか、また、出荷したときのメリットがあるか?を考えます。出荷前の肥育牛であれば出荷した方が経営上リスクが少なくなりますし、種雄牛でしたら全力で治癒させることを考えなくてはなりません。この判断がとても緊張します。

 さて、命に別状がないようであれば、どうして立てないのかを診ていきます。まずは尻尾に力があるか?もしなければ、背骨を傷めて脊髄の障害を起こしている可能性が大きいです。
 尻尾に力があるようなら、それぞれの足を診ていきます。趾間をつついて痛覚が正常か、自分の力で足を動かせるか、受動的に動かしたときにおかしな方向へ動かないか、またその時に変な音がしないか、も重要です。音を聞くときは、聴診器を当てながら足を動かしてあげる事もします。
 足が普通曲がらない方向に動いたり、聴診器から変な音(挫滅音といいます)が聞こえるときは、骨折か捻挫です。

 牛さんの骨折は、中手骨や中足骨より下(前膝から下と飛節から下の部分)の骨以外の場所ではなかなかギプスもできませんし、体重を考えても400kgを越えると治癒は難しいです。

 牛さんの起立不能は、尿石症や腹痛でも診られるので、そういうことも考えながら診察します。

 でも、一番多いのはやはり「股裂き」です。繁殖牛であれば、発情で他の牛さんに乗られたときが多いですから、陰門部などをみて、発情していないかも大切な所見です。
 また、僕の経験に過ぎませんが、ヘモフィルス症を発症している雌牛では、発情しているものをたくさん診てきました。発情の時は免疫が低下するのかも知れません。

 肥育牛の股裂きは、床の状態が悪いケースも多いのですが、実はもっと多いのが「敷料を交換したあと」なのです。牛さんはうれしがって跳ねまわりますし、新しいノコクズは床と滑りやすいのです。こういうケースも気を付けてくださいね。

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