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蓮沼浩のコラム
「第85話 「肥育牛の肺の聴診 その2」」

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2008年5月22日

肥育牛では熱がでて呼吸数も多い時にはほとんどの場合で肺にラ音や荒くなった肺胞音を聴くことが出来ます。しかし時々まったく肺の音がしない場合があるのです。このような場合は要注意。よく聴くと少しはなれたところでは「スースー」と肺胞音が聴こえ、音のしないところもわずかに気管支狭窄音が聴こえていたりします。このような音の聴こえない肺の状態は「無気肺」といわれており肺水腫や肺膿瘍などのときに見られることがあります。肺水腫の場合は臨床症状からすぐに診断はつくのですが肺膿瘍の場合などは牛さんの状態は悪いのですがなかなか診断がつけきらないで判断が遅れてしまう場合があります。小生は昔、多発性肺膿瘍の肥育中期の牛さんを肺音がよく聴こえず、ほんの少しだけ気管支狭窄音が聴こえる状態だったので慢性肺炎と診断して治療を行い、しばらく経過観察していました。しかしある朝突然農家さんから「牛がわざれか血をはいて死んそうやっど!先生、一体どげんなっとんのか!!」とすごい剣幕で電話がかかってきました。すっ飛んで現場に急行するとそれはもう牛さんが大量に喀血しいているではないですか!幸い薬の休薬期間も過ぎていたのですぐさま緊急出荷。このときはいわゆる後大静脈血栓症と多発性肺膿瘍でした。もしも1回でも血液検査をしていれば総蛋白とγ−Glbの数値である程度は予測できたと思います(11〜15話参照)。反省です。余談ですが今までの経験から肥育牛が喀血するときはほとんど後大静脈血栓症、肺膿瘍、肝膿瘍をもっているのですぐに緊急出荷することをおすすめします。ただし、場合によっては枝肉全廃棄となる可能性もあるのでそこのところは覚悟しておいてください。最後に肥育も中期を過ぎたあたりからはかなり肺胞音が聴診で聞き取りにくくなってきますので「無気肺」との区別は注意してくださいね。
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