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蓮沼浩のコラム
「第84話 「肥育牛の肺の聴診 その1」」

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2008年5月15日

聴診器がもっともポピュラーに使用される場所はやはり肺ではないでしょうか。肥育牛の獣医さんにとって肺の聴診は非常に重要な診療です。まず聴診器をあてる場所ですが小生は左側に6ヵ所、右側に6ヵ所、合計12ヵ所あてています。本来ならば1ヶ所ずつ時間をかけて丁寧に聴診しなくてはいけないのですが診療が忙しいのでかなりのスピードでこの12ヵ所を聴診していきます。そして少しでもあれ?と思ったときに注意深く聴診します。しかしどんなに忙しくても一番要となる肘後(ちゅうご)の聴診だけは左右共にしっかり聴くようにしています。というのもここが気管支から肺に空気や雑菌などが最初に届く部位であり、とにかく一番肺がダメージを受けやすい場所だからです。最初にこの部位が肺炎におかされることで聴診によりラ音を聴き取ることができます。この部位に問題がなく他の部位からラ音が聴き取れるということはあまりありません。だからこの「左右の肘後」は肺炎を診断するうえでの超重要ポイントなので忙しくてもしっかり聴診しなくてはいけません。この場所をしっかり聴けば予後もかなりわかってきます。獣医さんがこの部位を結構丁寧に聴診していて「ふ〜〜〜」なんていって肩を落としていたらかなり悪い肺炎ですね。慣れてくると獣医さんの後姿で肺炎の状態がわかるかもしれません。あとこの部位は心臓が近いので心音も一緒に聞き取れてしまうので第80話で説明した高周波音モードに切り替えて心音を避けてしっかり肺の音を聴くようにすると意外といいですよ。
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