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池田哲平のコラム
牛の解剖127:雌性生殖器(10)

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2013年10月18日

 ウシさんの場合、着床が起こるのは子宮小丘に限定されていますが、その子宮小丘は子宮内に100個ほど存在しています。妊娠していない時には直径約15mmの小さな円形で、妊娠時には最大50mmくらいにまで大きくなります。つまり、着床する場所が限定されているからと言って、ピンポイントでココしかないというわけではなく、比較的どこに行っても子宮小丘は胚のすぐ近くにあるということになります。

 また、最初に着床が起こるのは1か所だけですが、胚が成長してくると、子宮内のいたるところの子宮小丘と胚とがくっついて胎盤を作ります。この様に、ウシさんでは子宮の中のいたるところに胎盤が存在するような形をとるので、胎盤の種類分けの中では“多胎盤”と言われます(ヒトやマウスは1個の円盤状の胎盤=盤状胎盤、イヌやネコはぐるっと帯を巻いたような胎盤=帯状胎盤、ウマやブタは胚全体にまんべんなく胎盤が分布=散在性胎盤)。

 この多胎盤のメリットの一つとして、胎盤剥離の際のリスク低減が挙げられます。
上に挙げたウシさん以外の生物の胎盤は全て一続きの構造をしているので、分娩などの際に、何らかの原因でひとたび胎盤が剥がれると連続して剥がれていってしまい、胎子の命が大きな危険にさらされます。一方、ウシさんの場合は小さい独立した胎盤がいくつも存在することと同じなので、たとえそのうち数個が剥がれてしまっても、他の数十個で胎子への血流は十分確保できます。このため、残った胎盤のみでも胎子の生命維持はかなりの時間可能です。

 ただし、分娩の際に羊水に血が混ざっている時は、その血の量に応じて胎盤が剥がれ始めているサインなので、胎子のバイタルをチェックしながら、可能な限り早く胎子を娩出させた方が安全なことに変わりはありません。

牛の解剖127:雌性生殖器(10)

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