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舞子ぷらずま☆—今牛舎で読みたい本10選—第10回

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2013年9月10日

第10選:「赤毛のアン」モンゴメリ
                 ――「神は天にあり、世はすべてこともなし」

舞子ぷらずま☆—今牛舎で読みたい本10選—第10回

最後の1冊は、私の一生の愛読書「赤毛のアン」シリーズで締めくくりたいと思います。
ほら、たまにあるじゃないですか、大人になって読み返すと印象ががらっと変わる本。課題図書で読まされたときはつまらなかったのに、大人になって読み返すと「こんな味わい深い作品だったのか!」と涙がでるような。本作はまさにそういう深みのある1冊。児童文学に括られることが多いですが、ちょうどジブリ作品のように大人も十分に感動を味わえる名作です。
やせっぽちで感受性豊かな孤児のアンが、カナダのプリンスエドワード島の厳格な老兄妹、マシュウとマリラに引き取られ、成長してゆく物語。私が子供のころは、天真爛漫なアンが引き起こす騒動に、いちいちドキドキハラハラしながら読んでいました。イジワルな女の子の「屋根を歩け」という挑発に乗った挙句、見事に転落し骨折。はたまたコンプレックスの赤毛が黒髪になるという行商人の甘言にのせられて髪を染め、緑と赤のまだらという超不気味な色になってしまう大失敗。その他も川に流されてみたり、友達にジュースと間違えてお酒を飲ませてみたり…。のどかな田舎を舞台に起きる騒動の数々、大人になって読んでも微笑ましく面白くはあるのですが、それより、その騒動に直面するたびに、一度も取り乱したことがない冷静なマリラが、育児の方針に悩み、心を痛め、アンを心から心配し思いやる描写に感動するようになりました。子供の感受性、魂の美しさもさることながら、それを理解して愛をそそぐ大人が大勢いる社会の、なんと素晴らしいことか。まっとうな大人と、その愛をうけて真っすぐ伸びる子供。美しい四季を背景に描かれるこの年月は、愛おしい宝物のように輝いています。
様々な訳者で出版されていますが、本作の世界観にもっともしっくりくるのは、やはりクラシックな村岡花子訳。実はこのシリーズは、アンが末娘リラの子育てを終えるあたりまで続編があります。最終刊「アンの娘リラ」は、美人でしっかりした現代っ子の末娘リラが、戦争という大きな試練に耐え大人の女性へと成長する物語。牧歌的な「赤毛のアン」とはまた違う、深い祈りと献身的な愛に満ちた1作でこれもおススメです。

 「でも、あたし、なんにも期待しないほうが、がっかりすることより、もっとつまらないと思うわ」

 「お前のロマンスをすっかりやめてはいけないよ」(中略)「すこしならいいことだよ――あんまり度を越しちゃいけないがね、もちろん――。だがすこしはつづけるんだよ、アンや、すこしはつづけたほうがいいよ」

 「そうさな、エイヴリーの奨学金をとったのは男の子じゃなくて、女の子ではなかったかな? 女の子だったじゃないか——―わしの娘じゃないか――わしのじまんの娘じゃないか」

(おしまい)

黒沢牧場 上芝舞子

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