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舞子ぷらずま☆—今牛舎で読みたい本10選—第9回 |
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2013年9月3日
第9選:「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎
――「逃げろ、オズワルドにされるぞ」

最近の若手の中でも人気の高い伊坂幸太郎。「ゴールデンスランバー」は、コミカルからヘビーなものまで書ける実力派の彼の、最も「伊坂っぽい」ところが凝縮された作品だと思います。
舞台は仙台。青柳雅春はパレード中の総理大臣暗殺の犯人の濡れ衣を着せられる。事件当時、現場近くにはいたものの、全く身に覚えがないまま、警察やメディアなど日本中から追われる身となる青柳。訳のわからないまま必死に逃走する間にも、次々と証拠が現れ、やがて巨大な陰謀が姿を見せ始める――。
あらすじからも分かる通り、ものすごく理不尽なストーリーです。念のため言っておくと、読後感はとてもいいです。随所に感動できるところがあり、最終的にエンターテイメント性抜群のいい作品だった、と本を閉じられるので、是非おすすめしたい。
ただ、私がこの作品で「ふむぅ」と唸ったのは、主人公の青柳がただひたすら逃げ惑う点です。小説の世界って、巨大な悪に追われるのが、私たちのような普通の一般市民だったとしても、何かしら反撃したりだとかありそうなものですが、この青柳青年はただひたすら逃げる。情けないほど汚れて逃げて、それなのにどんどん大事なものを失い、追い詰められていく。作品の三分の二くらいまでは、「結局組織に、個は勝てないのか…」と、苦い思いを抱きながら読むことになります。いつか自分だって似たような目に合うかもしれない、と思わせる圧倒的なリアリティ。私たちがが生きている現実と、同じ重力の世界で物語が展開され、ラストに向け一気に収束してゆく疾走感が、本作の一番の魅力でしょう。
最終的に彼を救うのは、古い記憶、とだけ書いておきます。けっこう、感動しますよ。
「人間の最大の武器は習慣と信頼だ」
「でかい理不尽な力に狙われたら、どこかに身を潜めて、逃げ切るしかないんだよ」
「名乗らない、正義の味方のおまえたち、本当に雅春が犯人だと信じているのなら、賭けてみろ。金じゃねえぞ、何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ」
(つづく)
黒沢牧場 上芝舞子
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