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舞子ぷらずま☆—今牛舎で読みたい本10選—第8回 |
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2013年8月27日
第8選:「空中ブランコ」奥田英朗――「性格は、既得権」

なんだか「世の中めんどくせぇな」とくさくさするとき、ぱーっと気分を晴らしたいとき、難しい話なんてあっちいけしっしっなとき。何もかも嫌になっちゃったときほど、読む本選びは慎重にしたいもの。気分が落ちているときに、面白くない壁投げ本を引き当てるほど腹の立つことはありません。
で、私の場合、そんなやさぐれ気分になったら読む本は、奥田英朗の「空中ブランコ」。直木賞受賞作の短編集です。
表題作の「空中ブランコ」は、サーカス団で空中ブランコを飛ぶ公平が、突然ジャンプができなくなり、不眠症から人間関係を思い詰めていくストーリー。そのほか、先端恐怖症のヤクザや、創作に迷う女流小説家など、悩める現代人を主人公にした5編が収録されています。彼らを診察するのが、色白デブで超絶ぼんぼんの精神科医、伊良部一郎。注射フェチの伊良部は、毎回患者にビタミン注射を打つばかりで、まともな診察は一切なし。先端恐怖症のヤクザへ注射をうつため(もちろん治療ではなく自分の趣味)、手を変え品を変え奇策を繰り出すくだりは爆笑必至です。治療を受けに来たはずなのに、伊良部の破天荒な行動に振り回され、騒動に巻き込まれていく患者たち。でも、投薬もカウンセリングも受けていないのに、その騒動のなかで自然と自分で解決策に気付いてゆきます。
外野の声はとても大きく聞こえますが、自分の心の声はとても小さいもの。優しく耳をかたむけてあげないと聞こえません。自己中はよくないけれど、肩の力をぬいて、自分の心を素直に認めるのも大事よね、と笑顔で本を閉じられる1冊です。
「負けそうになることは、この先何度もあるだろう。でも、その都度いろんな人やものから勇気をもらえばいい。みんなそうやって頑張っている」
「人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。その言葉を扱う仕事に就いたことを、自分は誇りに思おう。神様に感謝しよう」
(つづく)
黒沢牧場 上芝舞子
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