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池田哲平のコラム
牛の解剖120:雌性生殖器(3)

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2013年8月30日

牛の解剖120:雌性生殖器(3)

 発情周期中に見られる典型的な卵巣のダイナミックな構造変化とは、卵胞の発育とその後の黄体の出現です。

 牛さんの卵巣には“卵胞”と呼ばれる卵細胞を容れているカプセルの様な構造がいくつも存在するのですが、一つの周期中に排卵にまでたどり着ける卵胞は基本的に一つだけです。初めは数mmしかない各卵胞は、周期中に我先にと大きくなろうとするのですが、排卵にまで至らなかった卵胞はある時点で小さくなっていき、中に入っている卵細胞も死滅します。最終的に排卵に至る成熟した卵胞(“成熟卵胞”または“主席卵胞”と呼ぶ)は、発情期に急速に大きくなり、排卵直前には直径12~19mmほどになります。この大きくなった卵胞から発情に関わるホルモンが分泌され、咆哮(ほえること)や乗駕(マウンティング)・乗駕許容(スタンディング)といった発情行動が見られるようになります。

 主席卵胞が排卵した痕は、卵巣の表面がクレーターの様に凹んだようになるのですが、それもほんのわずかな時間の間だけです。排卵した痕の凹みには卵胞を構成していた細胞が残っていて、この細胞が形と機能を変化させて増殖し、凹んでいた卵巣の表面を埋めるどころか突出するくらいにまで大きくなり、ひと固まりの構造物を形成します。これが“黄体”といわれるものです。黄体は卵子が精子と出会って受精した場合、受精卵の妊娠維持に関わるホルモンを分泌する構造物です。つまり、黄体が上手く作られないと、受精は上手くできていても妊娠しないという事が起こり得ます。

 ご自分で人工授精を行う牛飼いさんで心配性の方の中には、授精した翌日、排卵確認(俗に言う“卵が割れたかどうか”の確認)を行う方もいると思いますが、この時、排卵の痕を指で強くなぞり過ぎると、黄体に変わる途中の卵胞の細胞が傷ついてしまったり剥がれてしまったりして、しっかりした黄体が作られない事が多々あります。排卵後の卵巣や細胞は非常にデリケートですので、排卵確認は基本的に行わない方がいいと言われています。

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