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舞子ぷらずま☆—今牛舎で読みたい本10選—第5回

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2013年7月30日

第5選:「100分de名著」シリーズ NHKテレビテキスト
                        ――「考える」ことが、すべてだ

舞子ぷらずま☆—今牛舎で読みたい本10選—第5回

折り返し地点の今日は趣向を変えて、NHKのEテレで放送している「100分de名著」のテレビテキスト。古今東西の名著をわかりやすく解説してくれる人気のテレビシリーズです。「源氏物語」から「論語」「相対性理論」まで、名著といわれながらも、手にとりがたい作品ばかりがずらり。タイトルだけ見ると無理無理!と思ってしまいますが、その道研究何十年の第一人者の先生を解説に迎え、伊集院光の緩急つけた軽妙なトークで進行される番組は、夢中になって見られる25分です。
私が特に印象に残っているのは、2012年6月に放送された、パスカルの「パンセ」。「人間は考える葦である」でひろく知られるこの本は、科学者であったパスカルが人間の本質をつきつめて考えた際のメモ書きのような未定稿を集めた「断想集」です。きちんと整理・完成されていないがゆえに、彼自身の思考の軌跡が色濃く残る断章は、どんな状況、年代の人も共感できる汎用性を備え、ある種の答えを用意してくれる、まさに名著。テキストはさらに、飢餓も戦争もない現代日本だからこそ私たちが感じる「生きにくさ」、この答えとなりそうな部分をピックアップしてくれている親切編集です。
人生の決断を誤ったと思ったとき、嫉妬に悩まされるとき、生きるのがしんどいと感じるとき…。そんな自分を救えるのは自分の心しかないことを、大人になった私たちは身にしみてわかっています。結局は「考える」しかないわけですが、その思索のよすがとなるに違いない、100ページあまりに叡智の重みが詰まった1冊です。

 「一生のうちでいちばん大事なのは、どんな職業を選ぶかということ、これに尽きる。ところが、それは偶然によって左右される」

 「好奇心というものは、実は虚栄心にすぎない。たいていの場合、何かを知ろうとする人は、ただそれについて他人に語りたいからだ」

 「人間の最大の卑しさは、名声の追求にある。しかし、まさにそれこそが、人間の卓越さの最も大きなしるしなのだ」

 「わたしたちの尊厳は、すべてこれ、考えることの中に存する」

(つづく)

黒沢牧場 上芝舞子

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