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池田哲平のコラム
牛の解剖115:雄性生殖器(8)

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2013年6月21日

 実はこの副生殖腺のところで一つ、臨床上、ちょこっとだけ大切な構造があります。副生殖腺そのものではないのですが、解剖学的にはほとんど日の目を見ないし、臨床的にもある特定のケースでしか関わる事がない(しかも目で見ることはほとんどない)、かなりマニアックなものです。農家さんが知っておく必要はまずないでしょう。

 その構造物とは、「尿道背側憩室」と言われる部分です。臨床的には「尿道峡」と呼ばれる事が多いです。

牛の解剖115:雄性生殖器(8)_01

 場所は図を見て分かる通り、尿道球腺の直下で、ちょうど尿道が水平方向から垂直方向に90℃曲がる部分にあります。尿道球腺からの分泌液が出てくる場所になり、盲端になっています。

 ここがどうして大切なのかというと、尿道バイパス手術の時の関門として知られているからです。過去に蓮沼先生もコラムで記載していますが(第19話~20話)、この構造がある事を知っているのと知っていないのとでは、手術の成功率が大きく変わってきます。

 バイパス手術の際には、尿道を途中で切って、その切断端からカテーテルを入れて膀胱にまで通して排尿させるのですが、カテーテルをまっすぐ入れていってしまうと、ちょうどこの憩室があるところの尿道のカーブに対応できず、まっすぐ上に進んでしまい、かなりの確率で憩室に入ってしまいます。すると、いつまでたってもカテーテルが膀胱まで到達しません。カテーテルを挿入する際には、この背側憩室に入らない様に腹側にカーブしたカテーテルを使用しなければいけません。

 しかし、蓮沼先生が第20話で紹介していたチューブは現在製造中止になっており、入手できません。そこで、いまシェパードではホームセンターで売っている普通のシリコンチューブで代用しています。それぞれ思い思いの方法でチューブにカーブをつけて、最低一本は診療車に積んでいます。

牛の解剖115:雄性生殖器(8)_02

 先日も尿石症による尿閉を起こした牛さんがいて尿道バイパス手術を行いましたが、このカテーテルのおかげで膀胱まで一発で入り、牛さんを助けることが出来ました(診断から術前準備・手術・片付けまで全ていれて1時間程度、手術そのものは30分程)。

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